続き→ トップへ 小説目次へ

■双子との再会

私は自分の店の跡地に来ていた。
店はもはや更地ですらなくゴミ置き場になりかけている。
今も跡地には、勝手に捨てられた土管らしきものが三つ。
しかしこれは……。

――なんでしょう。この琴線に触れる不法投棄。

歌の経験は無いのに、何やらリサイタルをしなければいけない気分になってきた。
私は何やら衝動にかられて土管に座り、腕組みをし、ふんぞり返って叫ぶ。
「おれはこの街の王様!さからうものは、死けい!」
むろん子どもが言うことなので、通りの人は誰も聞いちゃいませんが。
あ……でも何か鬱々とした気分がスーッとしてきた。
子どもっていいいなあ。
やっぱり悩むのは得意じゃないや。
私は記憶の彼方の偉大なる御方に感謝し、土管を飛び下りた。
そうだ、考えるより行動だ。グレイなんて、今度会ったら殴ってやろう。
――でもとりあえず、遊園地に行きますか。
お互い頭を冷やさないと。
どうせ自分の持ち物なんて全部買ってもらったものだ。
身一つでどこへでも行けるなんて気楽でいい。

――とはいえ、クローバーの塔から遊園地まで……。
遊園地自体はこのあたりから見える距離だ。
ただ子どもの足だとどれくらいかかるだろう。雪が降ってきたら最悪だ。
というか、本当にいつ大きくなれるんだろう。
――まあ、行くしかないですよね。
私がとぼとぼと遊園地への道を歩き始めたとき、
「あれ?」
聞き覚えのある声がした。
「お姉さん?やっぱりお姉さんだ」
「うん、ちっちゃいのが、さらにちっちゃくなってるけど、お姉さんだね。兄弟」
私は驚いて振り向く。
「ディーにダム!?」

嬉しそうに駆け寄ってきたのは、黒スーツをまとう双子の門番だった。
――お、大きいですね……。
双子が大人になった時点で私より大きかったけど、私が子どもになった分、さらに
身長差が開いている。正直言ってちょっと怖い……。
双子は私をさっさと抱き上げ、頬ずりしてくる。
「お姉さん、可愛いよ」
「これなら元の僕たちよりもちっちゃいよね。可愛い」
こちらも何となく笑顔になる。
「あなたたちはお散歩ですか?」
「ううん。お姉さんの店が雪でつぶれたっていうから見に来たんだ」
とディー。
「二人とも心配してくれたんですか?」
ちょっと嬉しくなる。するとダムが、
「うん。ボスに、お姉さんがそこらへんに行き倒れてたら回収してくるように言われたんだ」
「…………」
まあ実際に行き倒れたので反論が出来ない。というか『回収』って……。
「そしたら本当にお姉さんがいた。何か小さくなってね」
「きっと店がつぶれてちゃんと食べないから縮んじゃったんだよ。可哀相なお姉さん」
「いえいえいえ。小さくなったのはですね……」
説明しようとすると、ひょいっとダムにだっこされた。
そのまま肩車され、視界がぐっと高くなる。
「それじゃ屋敷に行こうか、お姉さん」
「お姉さんを連れて帰ったら臨時ボーナスだね、兄弟」
「ええ!?ちょっと待ってくださいよ、私は行くところが……!」
と、そこで考え直す。
そういえば捕まってもどうこうされないよう、ユリウスが小さくしてくれたんだった。
こんな小さくなってはブラッドも私をどうにも出来ないだろうし、茶園も気になる。
茶園の様子だけ見て、さっさと返してもらおう。
私は考え直し、ダムの頭にしっかり捕まる。
「それじゃ、出発進行してください!」
「了解!」
「行こう、お姉さん」
私たち三人は笑いながら、帽子屋屋敷に歩いて行った。

そして秋。

「…………」
呆然とした。
帽子屋屋敷は一面の秋模様だった。
紅葉の葉が舞い、落ち葉が地面を覆っている。
「ええ!?お姉さん、エイプリル・シーズンを知らなかったの!?」
「もう四季が来て結構経つのにね」
双子も驚いたようだった。私もポカンとしていた。
帽子屋屋敷は秋まっさかりだった。

1/4

続き→

トップへ 小説目次へ

- ナノ -