続き→ トップへ 小説目次へ ■緑茶でお茶会 庭の木陰にシートを敷き、私は緑茶のお茶会を楽しんでいた。 緑茶のソムリエが急須を操り、私の湯呑みに煎茶を注いでくれる。 「お嬢様、どうぞ」 「ありがとう」 お礼を言って、私は湯呑みを受け取る。 緑茶のソムリエは私一人のために、わざわざブラッドが雇ったらしい。 そしていただいた茶の色は文句のつけようもない薄い新緑。そして水のような透明さ。 立ち上る香気を楽しみ、私は上澄み液をそっと口にする。 舌に広がる香ばしさとほのかな甘み。 ああ、日本人に生まれて良かった。 「良いお茶です。ご苦労でした」 心持ち緊張している様子のソムリエを労うと、相手はホッとした顔になり、 「お口にあって何よりです。 ささ、お茶菓子もお召し上がりください、ナノ様」 「いただきます。後は大丈夫ですよ」 私はそう微笑んで、ソムリエを下がらせた。 ……何やら華族の令嬢のような真似をしたものの、実際のところ、お茶のことは何一つ分からなかったりする。 気持ちとしては海外旅行に疲れていたころ、現地の日本料理店で緑茶を出された、くらいの恐ろしく軽い気分か。 とはいえ何だか私はこの帽子屋屋敷で、異世界から来た茶名人のような扱いを受けていた。 「苦いだけで全然分からないよ、お姉さん」 「本当にそんなにいいの? このおまんじゅうの方がよっぽどいいよ」 茶を味わう私の横で、双子たちは茶菓子で舌を慰めながら文句を垂れる。 最初、この双子君たちには嫌われていた気がする。 でもなぜだか、懐かれるようになった。 この緑茶のお茶会に関しても、来なくていいと言ったのに、なぜか強引に参加してお茶を淹れさせていた。 きっとお茶菓子が目当てなのだろう。 でもそういった無邪気ささえ可愛く思えるのは子どもの特権だ。 「そうですね。子どもにお茶はちょっと早かったですね。 さあ、私のお団子も食べていいですよ」 微笑むと、なぜか突然双子は競うように茶を一気のみする。 「お、美味しいよ。お姉さん。ええと、濃くて不味くて、うん、良いと思う」 「大人の味だね。お姉さん。僕らちゃんと分かるからね!」 ほほえましい姿に私は笑った。 「ふふ。子ども扱いされたくないんですね」 「というより、あんたに子ども扱いされたくないんだろうな」 振り向くとエリオットがニンジンまんじゅうをつまんでいた。 彼はこのお屋敷のナンバー2でとても忙しいらしい。 けれど彼もまた私のお茶会に参加してくれていた。 「エリオット、二杯目はいかがですか? 私が淹れますよ」 そう言ってエリオットの湯呑みを取ろうとして、私は湯呑みの中身がさっぱり減っていないことに気がついた。 「す、すまねえ。俺もちょっとお茶とか分からないんだ」 気まずそうに言って、五本目だか六本目だか分からないニンジン団子に手を伸ばす。 私は『紅茶の味が分かる友が欲しい』と私を強引に屋敷にとどめたブラッドの気持ちが少し分かった気がした。 1/5 続き→ トップへ 小説目次へ |