続き→ トップへ 小説目次へ ■生水に当たった話 割れて中身がこぼれる湯呑みを、片づける余裕も無く。 私は立ち上がった。どうも耳鳴りがするような。 エースは、明らかにグレイを挑発しようとしていた。 「なあ、トカゲさんもナノを抱いたんだろ?どうだった? ×××××させたとき、ナノっていつも××××になるだろ?」 「ナノがそこにいる!もうしゃべるな!」 けれどエースは残酷に言葉を続ける。 「ナノがもっと悦ぶ裏技を教えようか?」 「おまえ……っ!」 私は数歩よろめく。顔から血の気が引いていくのが自分でも分かる。 気候の変化で風邪でも引き始めているのか。 「そっかそっか。じゃ、トカゲさんにはお世話になってるから教えるよ」 エースの言葉には一片のためらいもない。 「ナノってさ、結構×××が具合いいんだぜ。 この間も森で見かけたから散々追いかけて、力尽きて転んだところを捕まえたんだ。 そのあと×××××させてもらって、それで無理に××××××したらさ。 ちょっと×××が××××になっちゃってさ」 「騎士、おまえ……っ!」 「ナノを脱がしたとき、かなり×××が×××××になってたんだぜ。 でも最近ナノに会ってなかったからつい×××××しすぎちゃって。 ナノは×××が××××だったけど、俺に×××されながら許してくださいって。 なら×××××××させてよって言ったら、いつもは拒否するのにやらせてくれて。 でも泣き声があんまり可愛くてさ。つい興奮して、約束破っちゃって。 で、もっと×××を×××××したら、×××しながら、嘘つきって泣いて……」 「黙れえっ!!」 鉄のぶつかる重い音。鼓膜が破れたかと思った。 「帽子屋より貴様を先に始末する!おまえに比べればブラッド=デュプレの方がまだ扱いがマシだ!!」 グレイは吐き捨てた。そして気遣わしげに私を見る。私は首をかしげ笑った。 「あはは。そんなことありましたっけ?」 「あははっ!ナノって忘れっぽいよな」 「あ!思い出した。エース、ひどいですよ。しばらく×××が×××××だったんですから。 後でブラッドにもバレてひどいことされたんですよ」 終了後は何もせず夜の森に放置され、店に帰るまでどれだけ苦労したことか。 臨時休業し、伏せっていたら折悪しくエリオットが来て連れて行かれた。 で、ブラッドに気づかれ、あの手この手で追及され、耐えきれず話した。 そしたら、その後のブラッドがまたひどくて、無理やり同じことを……脱線した。 「あははははっ。ごめんごめん。君が魅力的すぎるからいけないんだぜ?」 「エースったら。あははっ」 私とエースは笑いあう。 「……この××××××がっ!!」 グレイがありえないほど汚い言葉を使い、エースに斬りかかる。 殺意も斬撃の強さもさっきまでの比ではない。 エースも嬉しそうに受け止める。 「あ……」 私はお腹を押さえ、ちょっとよろめく。 「あれ?」 ――く……っ!ま、まさかさっき飲んだお茶が当たりましたか!? 激しくなる一方の戦いを名残惜しく後にし、私は全力でその場を駆け去った。 …………。 「大丈夫か?」 背中をさすってくれていたユリウスが、ハンカチを差し出す。 「あー、何かお腹すっきりしました」 私は廊下に置いてあった観葉植物の植木鉢に、朝食をほとんど全て戻してしまった。 慌てて土をかけ、何とかごまかす。誰にもばれなければ上手いこと養分に……なるといいなあ。 私は手から土をはらい、腕組みして眉をひそめる。 「何かお茶に当たったみたいで。エースのことだから、お湯が生水だったんですよ」 「…………」 やはりひどい野郎だ。 そして私はユリウスを見上げる。 彼はあのとき、近くに隠れていたらしく私が走り出すなり後についてきた。 そして戻してる最中、大きな手で背中をずっとさすってくれていた。 「どうもありがとう、ユリウス」 私は頭を下げようとして、そのまま前によろめいた。 ユリウスは心得ていて私をしっかり支えてくれる。 でも私は慌てて離れた。 「ご、ごめんなさい」 汚してしまったハンカチも慌ててしまい、うつむく。 「私も悪かった。おまえをトカゲから引き離すため、エースにトカゲを挑発しろと言った。 だが、まさかあんなことを言い出すとは……」 何を言っているのだかよく分からない。それにグレイから引き離す、とはどういうことだろう。 あと、どうもさっきから悪寒が止まらない。 そんな私にユリウスが手を伸ばし、私はビクッとして後じさる。ユリウスは静かに、 「……男が怖いか?」 私は『?』と疑問符を頭に浮かべる。どこからそんな発想が出てくるのだろう。 「いいえ。ユリウスが汚れますから」 するとユリウスが自虐的に笑う。 「私は時計屋だぞ?」 そう言って、私を抱き寄せた。押し当てられた胸から時計の音がする。 そしてユリウスの仕事を思い出す。 ――ああ、そうか。ユリウスの仕事って……。 納得が行った。 「何だ、今まで気づかなかったのか?おまえ本当に……」 「ユリウスはすごいです。誰よりもすごい仕事をしてると思います」 ユリウスは私を抱きしめる力を少し強くする。 私はその胸にすがり、しばらく時計の音を聞いていた。 2/4 続き→ トップへ 小説目次へ |