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■座る場所を探す話・下

「椅子がダメならソファにしてくれ」
「はいです」
そして穏やかにソファに座らされたが、ここも私が失格にした場所だ。
――うーむ、これではせっかくのほうじ茶が冷めるばかりです。
私はチラッとグレイに目を向ける。
すると今度は、私を疑わしげに監視するグレイと目が合った。
「ナノ」
グレイはにこやかに私の名を呼ぶ。
「はい、グレイ」
私もニコニコとお茶をすする。『次同じことをしたら、どうなるか』という無言の脅しに気づかぬ私ではない。
「あー、お茶が美味しい」
私は素直にソファの上で正座し、ほうじ茶をすする。
――……すわりが悪い。
しかし出来る限り美味しそうに飲む。
飲み終え、三煎目を急須から湯呑みにうつし、また飲む。
そうするとグレイもやっと私が落ち着いたと思ったのか、私に背を向け、作業の続きを始めた。
――よし。
私は素早くテーブルに乗り、正座をして湯呑みに口をつける。
――あー、お茶が……
瞬間、ポンッと肩に手を置かれ、凍りつく。
「ナノ……」
振り向いたグレイは笑顔だった。この上ない笑顔だった。
だが、本人を前にして言えないけれど……この人の笑顔は結構怖い。
「ぐ、グレイ、これには、その深い訳が……」
グレイは笑っている。
「そうとも。緑茶にうるさい君のことだ。きっと深い理由があるんだろう。
だが、俺の部屋では俺のルールに従ってもらわないとな」
湯呑みを取られ、また両脇を持ってテーブルから引き離される。
向かう先はベッド。
「ぐ、グレイ、寝る場所に座るのはちょっと……」
「ああ。だが食事をしたり、俺が書類仕事をしたりする場所で正座することも、同じくらい考慮してほしいものだ」
私はじたばたと暴れる。けれど、女一人を腕二本で支えているグレイは動じない。
というか、ナイフをスーツの袖に装備したままでいる。
――どれだけ腕力があるんですか、グレイ。
「そんなに座りたいならベッドで好きなだけ座ってくれ……俺の上にな」
――セクハラ警報!セクハラ警報!
……いや予報だった。
私はベッドにごろんと転がされ、その横にグレイが寝る。
彼はコートを脱いで床に放り捨てると、正面から私を抱きしめ、唇を重ねた。
「ん……」
そのまましばらく音を立てて舌を絡め合う。
やっと離れたとき、グレイがさらに強く私を抱きしめた。
「いいな……」
「え?」
「君が俺の部屋にいてくれることだ。仕事中も、今までとは逆に帰ることばかりを考え、ナイトメア様に叱られてしまったよ。
人に説教をしておいて、よこしまな妄想を垂れ流すな、とな」
「…………」
個人的に私も叱りたい。けれどグレイは私の肩に顔を寄せ
「気もそぞろに帰ってくれば、君は可愛い悪戯をして待っていてくれる。
俺は本当に……」
そこから先は言葉にならないというふうに、至福の息をついた。
「…………」
正直に言えば嬉しい。
私がいることを、ただ私が私であるだけのことを、ここまで喜んでくれる人がいることが。嬉しい。

……でもまあ、そうやっていい話だけで終わらないのがグレイなのだけど。

グレイは私を抱きしめたまま仰向けになると、私を上に『乗せる』体勢になる。
「…………」
私は半眼になり、私を見上げる笑顔のグレイに冷たく
「申し訳ありませんが、私はそういう気分ではありませんので」
「どうかな?」
「っ!」
いつの間にか彼の手が、前側から下のスリットを撫で上げる。背に電流が走った。
私は顔を真っ赤にして、グレイの胸に爪を立てる。
「この……痴漢!変態!爬虫類!」
けどグレイはこたえた様子がないばかりか上機嫌に笑う。
「この間は俺が少しひどくしてしまったからな。お詫びに好きなだけ悪戯してくれていい」
「……結局、最後に楽しむのはグレイでしょう?」
するとグレイはなだめるように、
「ナノ、怒るな。後でお菓子をごちそうするから」
そう言う割に、悪戯しようとしているのはグレイの方だ。
彼の手は、もう動き出していた。

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