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■グレイの部屋で・中

窓の外は、宵の雪景色だ。
私はグレイのベッドの上で、明かりもつけず、暗い天井を見上げている。
考えるのは暗いこと、嫌なことばかり。
――ああ、もうまた悪い方向に行ってますね、私……。
混乱するとワケの分からない方向に飛ぶのだ。
簡単に考えよう。
女の子は好きな人を待っていられず遊んでいました。それがバレてふられてしまいました。
……簡単すぎて嫌でした。
まあとにかく、それでユリウスに多分嫌われてグレイの部屋に来て……。

そのときグレイが扉を開けて入ってきた。

仕事を終えたらしい。
逃げないで待っていた私に、ホッとしたような顔になる。
だけど私はベッドの上できゅっと丸くなる。
なぜだか怖い。
グレイが広い私室を横切り、まっすぐこちらに歩いてくるのが怖い。
大丈夫だと思っていても、彼の帰りが怖かった。
「ナノ」
優しく名前を呼ばれても冷や汗が出る。
「ナノ」
もう一度呼ばれ、髪に手をかけられ、指先が耳に触れ、ビクッと震える。
「ご、ごめんなさい……」
かすれる声でそれだけ言うのが精一杯だった。
「なぜ謝る。君には謝ることは何もない」
「ごめんなさい……」
私はグレイの手を振り払うように、頭を抱えてさらに丸まった。
どうしてだか、時間が経つにつれて自己嫌悪がひどくなる一方なのだ。

するとグレイはため息をつき、私の背の側に横になった。
「優しくしたいのに、俺はいつも失敗する。
俺の懐に入れ、大事にしてやりたいのに……」
そして私を後ろから抱きしめた。
「……ナノ。俺は君を……」
「い、痛い……」
腕の強さ、肌に食い込むナイフの痛さに、私の守りなんてアッサリ解ける。
痛さで私は暴れた。
「グレイ!本当に痛いんです、止めてください……っ!」
けれど逆に締めつけは強くなり、身体はより密着する。

グレイはもしかしたら怒っているのかもしれない。
そう、何となく思った。

私が、ユリウスに再会したら手のひら返して彼に愛想を振りまいていたことを。
彼の部屋に行こうとしていたことを。そして、
――何で私の悲鳴で興奮してるんですか、グレイ……。
背後から押しつけられるものが硬さを増していることに、若干突っ込みたい。
とはいえ、そんな余裕あるはずも無く。
「本当に痛いんです。折れます……痛い……」
それでも力は緩められず……相変わらずグレイは、その、煽られてるらしい。
「グレイ……」
そして私の懇願に涙が混じり始め、ようやくグレイが離れた。
「すまない。痛い思いをさせるつもりはなかったんだ」
「い、いえ、私が悪いんです。ごめんなさい……」

ならどうすれば良かったのかと言われれば分からない。
ユリウスの看病を断る方法とは。彼に会えて嬉しかったことは。
グレイを怒らせないようどう表現すれば良かったのか。分からない。
矛盾する。矛盾律だ。AとAでない事象は同時には成り立たない。
私の貧弱な頭は何も解決することが出来ない。
この世界の人は頭が良すぎる。私に同じものを求められても困る。
私は何とか逃げ場がないかとベッドの上をそっと動き、
「ナノ……」
「っ!」
突然、痛みのある箇所をつかまれた。
服越しでどこが痛いか分からないはずなのに。
「君は何をしても俺を怒らない。つけこみやすすぎて、本当に困る」
彼は私を憐れむようにそう言った。

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