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■歌おう、感電するほどの喜びを!

雪も止み、晴れ間の出たクローバーの塔。
領主の執務室は、光と闇に包まれていた。
「ははははっ!!ナノが時計屋を押し倒したぁ!?見たかった!見たかったぞ、それは!」
「あははは!いやあ、グレイが来てくれなかったら、ユリウスをどうする気だったんでしょうね。私」
爆笑するナイトメアと、爆笑はしないけど声をあげて笑う私。
とりあえずグレイが呼び寄せた医師にも診てもらい、危機を完全に脱したと言ってもらえた。
その頃には服も洗濯され、乾いていた。
私はその服を着て、ナイトメアにあいさつに来ていた。そして、
「引きこもっていたい。永久に時計塔に引きこもっていたい。これだから女は……」
「…………」
ひたすら部屋の隅で膝を抱え、ブツブツと呟き続けるユリウス。
よく分からないけど、今は作業場とクローバーの塔がつながっていて、ここの住人扱いになっているらしい。
そしてそんな彼を、殺意ある視線で見ているグレイ。
まあ、上司の部屋で勝手に落ち込まれては邪魔ですよね。
私はすたすたとユリウスの後ろに行き、
「ユリウス、そんなところで落ち込んでいないでくださいよ。カビが生えますよ?」
ポンポンと肩を叩くと、ユリウスが肩越しに振り返り、ジロリと睨まれた。
「……助けてやったのに恥をかかせて。おまえがあんな恩知らずとは思わなかった」
うっかり押し倒しをまだ根に持ってたんだ。
「大丈夫。私も誇り高き大和撫子。責任は取ります」
何の責任何だかさっぱり分からないけど。私はユリウスをまっすぐ見据え、
「私と結婚してください。いえ結婚しなさい、ユリウス」
瞬間にユリウスが固まる。
「ぶっ!!は……ははははっ!!」
「ナノ!?」
耐えきれず吹き出すナイトメアと叫ぶグレイ。
うむ。つかみはバッチリ。
ユリウスは私を凝視し……ニヤニヤした私に気づき、怒りで顔が赤くなる。
「この……っ!!」
彼は立ち上がるけど、それを予測した私は先に彼の首に手を回し、肩に足をのっける。
おんぶと肩車の中間のような姿勢だ。
「おお、視界が高いですね」
今まで接した男性陣の中で、最も長身なだけある。
視界が違う違う。当然、下からは抗議の怒声がする。
「重い!!こら、下りろ、この馬鹿娘っ!!」
ユリウスは必死に私を振り下ろそうとするけど、私はニヤニヤと肩車体勢になり、藍色の髪を引っぱるわ、頭に頬ずりするわとやりたい放題。
「なら結婚を承諾してください。もしくは私の面倒を一生見ること!」
「この……っ!!」
ユリウスはもう必死だ。
私は、もちろんユリウスが承諾するわけがないと承知の上でのおふざけだ。
下からはナイトメアが爆笑し続ける声。
「いい加減にしろ、じゃじゃ馬がっ!!」
「うわっ!!」
次の瞬間、どこをつかまれたのか宙に放られた。
華麗に視界が上下したかと思うと、弾みをつけてソファの上。
「ふわっ!」
どうも勢い良くソファに投げられたらしい。
そして起き上がろうとしたら、目の前にユリウスがいて、笑顔で私を見下ろし……
「ぎゃああーっ!!」
頭を彼の脇に抱えられ、締め上げられた。
久々のヘッドロックである。しかも容赦ない。
必死にもがくも、時計屋の脇のしめは半端なかった。
「このカフェイン中毒娘がっ!!」
「ユリウス、ごめんなさい、もうしません、お情けを!
こめかみが!私の素晴らしい脳みそがっ!」
「元から中身などつまっていないだろう!反省と学習能力をたたき込んでやる!!」
「そんなものを入れられたら私のアイデンティティが!」
「いるか、そんなもの!」
それでももがくうちに、どうにか手が緩まり、私は床にゴロンと転がる。
「は……ははっ!!」
何だか嬉しくて楽しくて、床に転がったまま手足をじたばたさせて大笑いした。
「はは、あはは、あははははっ……!!」
気が済むまで笑い、今度は足に反動をつけて一気に起き上がり、ユリウスに抱きつく。
「うわっ!!」
ユリウスの悲鳴。まあ抱きついたというか正面から激突したというか。
機械油の匂い、誰よりも落ち着ける時計の音。
以前と変わらない。
ユリウスだ。
ぎゅーっと抱きしめる腕に力がこもる。
そのまま私は目を閉じて、彼に抱きついていた。
「ふう……」
そして至福の息をついて、そして我に返る。
三人の男性が私をじーっと見ていた。
ナイトメアはもう爆笑していない。
ユリウスも懲罰モードから脱して、とてもとても困った目で私を見下ろしている。
――え……な、何ですか?空気を読め的流れ!?
あわててユリウスから離れる。けどナイトメアは、
「いや、君が我を忘れて狂喜している姿がな。飲み物以外で初めて見たよ……」
狂喜?大げさな。久しぶりに知り合いに会っただけ。そこまではしゃいでませんがな。
とはいえ、部屋の隅で置物になりそうだったユリウスはどうにかなった。
どんなもんですか、とグレイを見ると。
「…………」
彼はユリウスを睨んでいた。先ほどの比ではない。
何というか、視線でこいつをどうにか出来たら、というくらいの迫力。
殺人光線ならぬ殺人視線。凄まじい負のオーラだった。
ユリウスもさすがに気づき、不快気にグレイを睨み返す。
ただし火花が散るという爽やかな光景ではなく、マグマか有毒ガスでも発生しそうな瘴気が漂っている。
――え?え?な、何で?
でも私は訳が分からない。
グレイがユリウスについて何か勘違いしてたことは知っている。
私がユリウスにキスをしたり、×××したり、という展開なら分かる気もする。
でも今のやりとりは、久しぶりに会った私が悪ノリし、それにユリウスが怒っただけ。
グレイが怒る要素なんて、どこにあっただろうか。
「……君、自覚出来るようになっても、そういうところは相変わらずだなあ……」
ナイトメアだけが深く深くため息をついていた。

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