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■不思議な夢

騎士から解放され、店に戻ったが、夜の時間帯は続いている。
もう閉店するしかなく、私は肩を落としてプレハブ小屋に入った。
今回も売り上げゼロ。
赤字ばかりが増えていく。
「とりあえず、お茶でも淹れますか……」
私は考えないようにして、傾きかけた棚から急須を取る。

「はあ……お茶が美味しい」
寂しい厨房で私は息をつく。すきま風が吹き、ガタガタと店が揺れる。
いい場所ではないけれど、顔なしの常連さんも増えてきたし、近所の人も親切にしてくれる。
ここはようやく私が持ち、自分で選んだ居場所だ。
私はここが気に入っている。
――お茶はやっぱり玉露ですね。玉露が一番美味しい。
目を細め、芳香を味わい、そっとすする。

――でも男女関係はずっとこの状況ではいられませんね。
きちんと選べばいいのだろうが、未だそこには至らない。
帽子屋屋敷を見ては胸が苦しい。
クローバーの塔を見ては申し訳なくなる。
ハートの城を見ては……頭が痛い。
ただ、ブラッドは未だに私を物扱い。関係は改善されつつあるものの、基本的にこちらの意思はお構いなし。頭を抑えつけ、居丈高な態度に出てくることも多い。
グレイは非の打ち所がないけれど、恋心には至らず、それゆえに彼との関係もこじれつつある。
エースは……ああ、もう考えたくもない。
そしてうじうじしているうちに、また帽子屋屋敷に連れて行かれ。
帰ってくればグレイが嫉妬だか慰めだかで上がり込む。
それでまたひどく落ち込んでドアの森に行くと、毎度エースに捕まる。
「はあ……」
ため息しか出ない。自業自得なような、ただ理不尽なような。

「ナノ」
そのとき、私を呼ぶ声がした。振り向いて彼が立っていると知る。
「いらっしゃい。わざわざ店まで来たんですか?」
と微笑む。まあ、抵抗しても無駄だろうなと思っているから。
いい加減、泣いてもいい気がするけど、この後の行為はあまり嫌いではないので特に泣かない。
幸せでないことが不幸せとは限らない。
――これじゃあ汚れてるんだか悲劇のヒロインだか分かったもんじゃないですね。
そして私は彼に抱きしめられ、口づけを受ける。
そして拒否しない私を、彼はゆっくり押し倒し……

…………

私は夢を見る。普通の、でも変わった夢を。
そこでは四季の世界があり、サーカスがあった。

道化師の仮面が語る。
「なんだ、こいつ。頭おかしいんじゃねーの、××××か?」
「んだと、てめぇー!!」
「ち、違う、僕じゃないよ。ナノ!そんなに胸ぐら揺さぶらないで!!」

いろんなお祭りがある。
「え……こ、これがひな祭りですか!?」
「なんじゃ、ひな祭りを知らぬのか、ナノ。女の子のお祭りだというのに……」
――だ、ダメだこいつら。私が正しい日本の伝統行事を教えないと……。

そして、いないはずの人がいる。
「機嫌がいいな。何か、いいことでもあったのか?」
「何も。あ、珈琲淹れてきますね!」
私は泣きそうな気分になっていた。

そして……いったいどこだろう。
監獄だろうか。道化師と、所長らしい人がいる。
そして誰かが私に手を伸ばし、叫んでいる。

「こちらへ来るんだ、ナノ……来い!」

…………

そこで、私は目が覚めた。窓のすきまから光が差し込んでいる。
私には暖かい毛布がかけられていた。
けれど彼は去ったらしく、ベッドのかたわらの温もりはもう冷えている。
私はそのあたりを撫で、小さくため息をつく。
そしてしばらくうなだれ、顔を上げる。
「さて、お店を開く準備をしますか」
笑顔で起き上がって、服を着た。


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