続き→ トップへ 小説目次へ ■白ウサギとの再会(らしい) 「…………」 私は玉露の袋を抱え、呆気に取られていた。 その、個性的というには奇抜すぎるデザインの凄まじい外観のお城。 これに比べれば時計塔や帽子屋屋敷など可愛いものだ。 「しかし、ハートの城ですね」 ――ハトではなかった……。 ただならぬショックを受け、立ち尽くす。 しかしハトの中よりハートの中から白ウサギ氏を見つける方が容易い気がした。 私はこそこそと薔薇の迷路に迷い込むことにした。 ――その白ウサギ氏こそ、私の記憶について知っているはず。 記憶が戻れば住所も分かる、電話番号も思い出せる。 私は玉露の袋……ではなく、期待を胸に薔薇の迷路に入―― 「ナノ!! ナノじゃありませんかっ!!」 探し人は向こうからやってきた。 彼もまた、ウサギ耳の人だった。 整った顔立ちにウサギ耳と、赤地のスーツを身につけた――変に感じるべきなのに、 だんだんそんなことでは驚かなくなっていた――青年が、跳ねるようにこちらに駆けてくる。 「ああ、ナノ! 愛しい人、そんなに僕に会いたかったんですか?」 「ええ会いたかったですよ。私の過去を知っているらしいから」 すると白ウサギ氏は大仰に天を仰ぎ、 「過去だなんて! 僕はあなたの今だけを見ています! あなたの過去にどんなことがあろうとも! 愛しています、僕のナノ!!」 それは何か。 私の過去に何か重大な汚点なり過ちなりあったと言いたいのか。 「そうですか。それで、私の住所を教えていただけませんか?」 「生まれた場所が違おうとも、僕らは今ここにいる! 二人の間にどんな障害がありましょうか! ああ、愛しています、愛しいナノ!!」 歓待されているはずなのに、なぜか話がすれ違う。 「それはそれとして携帯をお持ちですか?」 「例え何も持たない二人であっても、あるのは愛! 僕は……僕は……」 愛してると言いつつ、言葉が素通りする。とても愉快な人だ。 ――というか、この人は私を愛してるんだ。 いっそ話を聞いていると見せかけ無視しているのでは……と思いたくなる返答ぶり だったから、つい聞き流していたけれど。 「あのですねえ……」 「ああ、ナノ! ナノ!! ナノナノナノっ!!」 「役にたたねえ耳ちょんぎってドラえもんみてぇなツラにすんぞ」 「――っ!」 ぼそりと呟いた私に、白ウサギ氏が黙った。 生き残った記憶の隅にお住まいだった、イッパイアッテナ氏に私は感謝した。 ……これ、本当はウサギには無意味な呪文なのだが。 1/5 続き→ トップへ 小説目次へ |