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■服従・4

――眠い……です。

私はベッドの中でうとうとしている。
寝返りを打ち、小さくうなり、羽毛布団をかけ直して、深く沈み込む。
でも寝ているだけでも色んなことがあるものだ。

たまに寝相が悪くて何も着ていない身体がちょっと見えてしまっていたり。

でもブラッドの部屋にやってくる人は、礼儀正しく見ないフリをしてくれていたり。

ときどき意識が戻ると腹心がブラッドと何か難しい話をしているのが見えたり。

何時間帯かに一度は、使用人さんがきれいに身体を拭いて、何か食べさせてくれたり。

たまに好奇心いっぱいの双子がそろーっと入ってきて、添い寝しようとして、腹心に銃弾を浴びせられ、その後で彼から全力で詫びられたり。

それで、うるさいから声をかけないで下さい、と私に機嫌悪く言われ、しゅんと耳を垂らして部屋を出て行ったり。

……夢の中では夢魔が絶えず何か言っていたり。

「帽子屋もえげつない。逃げる意志を奪う手法に出るとはな。
本当に、嫌な方向にだけ知恵をつける奴だ」
私は現実と同じく何もまとわず、夢の空間に横たわる。
そして気だるく夢魔を見上げた。
彼を見ると心のどこかが痛む。でももう起き上がる気力が無い。
彼は悲しそうな顔で、
「ナノ。帽子屋の言葉に惑わされるな。
君のあの明るさや優しさが、本当に計算ずくだったのか?
とうてい賛成しかねる。そんなことは!」
「でも、ブラッドはそう言って……」
「ナノ。奴がマフィアのボスで策士だということを忘れるな。
奴はただ、もったいぶって、分かったように言っているだけだ。
君の事は君にしか分からない。そうだろう?」
そう言われても、夢魔の言葉に以前のような勇気はわいてこない。
「もうどうでもいいです……放っておいてください」
私は無気力に背中を丸める。そんなダメな私に、夢魔は肩を落とす。
「君はもう選択しているからな。この世界にとどまると、君自身が決めた。
その上で君が選択した居場所まで、我々は干渉出来ない」
私はぼんやりと呟く。
「知らず、仮の宿り、誰がためにか心を悩まし、何によりてか目を喜ばしむる」
「また方丈記か。自分への皮肉か?ナノ」
私は目を閉じる。何も考えたくは無い。
「事を知り、世を知れれば、願わず、走らず、ただ静かなるを望みとし、憂い無きを楽しみとす」
悲しそうに夢魔は言った。
「歪んでいるが君の選択だ。あいつには私から話しておこう。さらに嘆くだろうが」
そして今度は独り言のように虚空に呟いた。
「さて、会合も残り一回。帽子屋は君を手懐けられるのやら」
それは願っているようでもあり、帽子屋を嘲笑しているようでもあった。
――会合……。
大事な言葉だった気がする。
けれど私は夢の中で眠り続ける。

そしてようやく起きたとき、私の横にはブラッドがいた。

「いや……ダメです……」
怖くて腕で身体を抱き、震える。
「いつもと位置が違うだけだよ、お嬢さん。むしろより深い快楽が得られる。
君が好きなものだろう?……さあ、上に乗って」
シャツとズボンの前を空けただけのブラッドは、堂々と横たわり、裸で座って震える私をなだめる。
けれどその顔は楽しんでいるようにも見えた。
「何も怖い事はないよ、お嬢さん」
「ダメです。自分からなんて恥ずかしくて出来ない……」
「飼い主の言う事が聞けないか?ナノ」
手で目を覆い、首を振ると、ブラッドは冷たく、

「言う事を聞かないペットを長く飼うほど、私も物好きではないのだがね」

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