続き→ トップへ 小説目次へ ■会合にて・上 「さて、行くか」 ブラッドが書類を置き、ソファから立ち上がる。 部屋には幹部始め、精鋭の部下たちが十数人は集まっていた。 その中心で、私はブラッドの隣に座らされ、腰を抱かれていた。 ブラッドとともに私も立ち上が(らされ)ると、エリオットが、 「よっし、ナノが来てくれるんだ。不毛な話し合いも今回で終わりだな」 「お姉さん、やっとお屋敷に戻ってくれるんだよね」 「これからはずっとお姉さんが一緒なんだね」 マフィアの幹部たちはテンションが高い。 ――で、でも、私が一言発言すれば、逆に私は住む場所を変えられるんですよね。 「お嬢さん。会合では、私たちを喜ばせる発言をしてくれるものと期待するよ」 「…………」 ブラッドは、目で私を威圧する。 そしてエリオットから帽子を受け取ると、優雅にそれを被った。 何だか帽子をかぶるとブラッドが怖くなった気がして、私は少し離れようとする。 すると、すぐに強い力で引き寄せられた。 怯えた顔をする私の前で、エリオットはかがんで目線をあわせる。 「ナノ、大丈夫か?何かずっとビクビクしてるよな。屋敷に連れ帰ったら、もっとニンジン食わせてやらないとな」 そう言って頭をなでる。双子も便乗して私の頭をなで、 「お姉さん、やっぱり記憶喪失だから?」 「お姉さんって記憶喪失になりやすいよね」 と勝手に言い合う。ブラッドは双子の手をはらって私を抱き寄せながら、 「まあ、お嬢さんの『大元』の記憶喪失と違い、今回のものは人為的でもなければ頭の損傷でもない」 ――人為的? 私の頭に一瞬疑問符が宿るが、ブラッドは続ける。 「簡単に言えば爆発の精神的ショックだ。 傷が治ったように、記憶もそろそろ回復するはずだ」 「ええ?ボス。お姉さんが元気になったら、キッパリと嫌だって言いそうだよ」 「うん、にこやかに爽やかに、マフィアは嫌ですって言い切るよね」 双子が何やら言い交わす。 失礼な。い、今だって嫌だって言い切れる……はず。 「だから、お嬢さんが元気になる前に発言させ、屋敷に連れ帰ればいいだけのこと。 そうすれば私の力でもう外には出さない。 おまえ達は事を荒立てるな。ナノに発言させ、すぐに屋敷に戻るぞ」 『了解』 部下たちが一斉に答える。 ……何だか、今の私がまともに発言出来ないと頭から決めてかかったような言い方だ。 「行くぞ、ナノ」 「……っ」 黒スーツのブラッドに、腰に手を回され、歩かされた。 ――だ、大丈夫。会合っていうところで、嫌だって言えば……。 うつむく私に、ブラッドが私にだけ聞こえるようにささやいた。 「分かっていると思うが、お嬢さん……。逃げたところで、また同じ目に遭うだけだ。 私は何度でも君を連れ戻す。誰かが傷ついたり、君自身がおしおきを受けたりするのが嫌なら、私の機嫌を取っておくのも得策だと思うがね」 「っ!!」 この塔に連れてこられ、ブラッドに繰り返された行為が頭を走る。 気持ちの良いことも多かったけど、痛いことも多かった。 そしてナイトメア……私を励ましてくれた人に、危害が及ぶというのだろうか。 「…………」 「ナノ。何を恐れる。何も君を取って食おうというわけではないし、あの行為も慣れれば完全な快楽に変わる。 私は君を守ってあげよう。 君はマフィアのことなど何一つ知らず、屋敷で永遠に私とお茶会をしていればいい」 ささやかれたそれは誘惑だった。 抗うな、従えと。 「期待しているよ、ナノ」 それだけ言うとブラッドは歩き出した。 もちろん側近もボスに従う。 周囲をエリオット、双子、さらに精鋭の使用人さん達が厳重に固める。 私が逃げる隙は絶望的に皆無だった。 2/5 続き→ トップへ 小説目次へ |