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■森の愉快な仲間たち・下

私はぼんやりと森を歩いていた。
ボリスが言った事は本当だった。本当に怪我が戻った。
あれから夢のない眠りについて、起きたとき。一生取れないんじゃないかと思っていた痛みがほとんど取れ、傷はきれいに治っていた。
でも時間差があるらしく、全ての傷が一度に治ったわけではない。
まだあちこちに包帯が必要だし、足も手もうまく動かない状態だ。

『それじゃ、いってくるから。俺たちとの時間、忘れないでよ』
『記憶が戻っても森に遊びに来てね!』
そう言ってボリスとピアスは『会合』とやらに出発した。
本当は私も、会合に行って良かったらしい。
どっちにしろ会合で私のことが報告されれば、すぐ誰かが迎えに来るはずだからと。
でも、会合に行く事は私が嫌がった。
私は街での爆発に巻き込まれて大けがをし、記憶喪失にまでなった。
そんな危険な場所にわざわざ行って『マフィア』に会うのも怖かった。
ボリスも強要はしない。
『いいよ。あんたはまだ治りたてだし……それじゃ、な』
そう言って、私の額にキスをすると、ボリスはピアスを伴い『ドア』の向こうへ消えていった。
――どこでもドア?
何となくそんな単語が浮かぶけど、あまりよく思い出せない。
そういえば、以前、こんな風に何かしら『元の世界のこと』をよく思い出していた気もする。
でも、今は真っ白で何も分からない。
ボリスが言っていることは全部は分からない。
けど、もしかしたら誰かが私を迎えに来るらしい。
爆発の原因らしいマフィアの人なら怖い。
そういうわけで、私はちょっとフラフラと森の中を歩いていた。
マフィアという人が来たのならすぐに逃げられるように。

――で、ここ、どこなんでしょう。
当たり前だけど、私はほどなくして迷子になっていた。
ボリスとピアスが帰ってくるまで隠れていようと思っただけだったのに。
気がつくと、キノコのベッドの場所は完全に分からなくなってきた。
時間帯も夕刻に変わり、冷たい風が肌を刺す。
「ボリス……ピアス……」
もう少し歩けば見慣れた光景に出るのでは、と期待して道を歩く。
でもたどりつかない。
それに二人はさっき会合に出発したばかり。
私は少し涙目だった。誰かに私を見つけてほしかった。
そのとき、
『おいで……』
声がした。
「誰かいるんですか!?」
私は顔を輝かせ、走……ることはまだ出来ないので、出来る限り早足で声の方向に向かった。
でもその声は、人の声ではなかった。

「…………」
私は身を縮めながら、不気味な木々の間を抜ける。
『おいで……』
『ドアを開けて……』
『行きたい場所に……』
私の周囲にはドアのついた木が無数に生えていた。
ボリスの便利なドアとはまるで違う。怖くて不気味な扉たち。
その一つ一つが私に呼びかけてくる。
「ボリス……ピアス……」
おまじないのように、私を守ってくれる二人のことを考えるけど、声は止まらない。
怖くて怖くて、こんな場所、早く抜け出したい。
なのに、なぜか抜け出せない。
何度も何度も同じ場所をぐるぐるしているらしい。
その間もドアは私に呼びかける。
『開けて……』
『望んだ場所に……』
「の、望んだ場所?」
私の望む場所は、もちろんあの二人のいるところ。
思わず私は一つのドアに手をかけようとする。
――でも、本当にそこにつながるんですか?
声の言う事は本当なんだろうか。
私は怖くなる。
それで、開けるのは止めて、オドオドと歩き回る。
「ボリス……ピアス……どこにいるんですか……」
私は泣き出す寸前だった。

そのとき、ドアの木立の向こうに人影が見えた。

「っ!!」
間違いない。夕方で薄暗くてよく見えないけど、誰か人がいる。
その人は私に気づかず、ドアをじっと見ていた。
何の動物さんかは分からないけど、誰でもいい。
「あの!すみません!」
私は怪我でよろめきながら、大声を出す。
「……?」
相手は振り向いた。
私は何とかその人の前まで早歩きし、
「あっ……」
無理をしすぎて、つまづいてしまった。
「おっと!」
その人は倒れる前に私を支えてくれた。
「大丈夫?」
「あ、ありがとうございます……」
私は少し顔を赤らめ、助けてくれた人を見上げた。
私を抱きとめてくれたその人は私に笑いかける。

「あはは。怪我をしているのに危ないぜ?」

青空のような爽やかな笑顔を見て、私はホッとした。

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