続き→ トップへ 小説目次へ

■森の愉快な仲間たち・中

「あっち?大騒ぎ?」
私は首をかしげた。
するとピアスもピタッと止まる。そして耳を垂れ気味に、
「うん。ナノがずっと行方不明でしょう。それでボスが情報集めて。
ナノが対抗勢力の爆破に巻き込まれたらしいって知ってから……。
もうあの対抗勢力どころか他の敵対勢力も三つくらい潰しちゃった。
俺、仕事増えてすごく大変」
ボリスもげんなり顔でリゾットを一気にすする。
「帽子屋さんも分かりやすすぎるよな。会合で荒れすぎだぜ。
夢魔さんも夢魔さんでナノは生きてるけど場所は分からないって、あいまいだし。
それを毎回繰り返すもんだから、塔がナノを隠してるんじゃないかって宰相さんが疑って。
トカゲさんも、おまえ達マフィアのせいだろうって、帽子屋さんに噛みついて……」
「そ、それはすごいですね」
宰相さんとかトカゲさんとか、誰の事か分からないけど。
「今じゃ一触即発。誰がいつ銃を持ち出してもおかしくないよ」
そしてボリスは私の頭を撫でる。
「何より、あんたもずっと元気ないからな。次の会合であんたの事を報告するよ」
するとピアスは嫌そうに異議を述べる。
「俺、ナノにはずっと森にいてほしい!」
「馬鹿、そんなこと出来るわけないだろ!ほら、おまえがいると話が進まないんだ。
さっさと後片付けしろよ!」
と、ボリスは渋るピアスをこき使って片づけさせる。
私も手伝いたかったけど、それはボリスに止められた。
「いいんだよ。あんたはまだ怪我してるし、あいつは『お掃除ネズミ』だから、こういうのは好きなんだ」
「そうなんですか?」
確かに片づけするピアスは手が早く、手伝う隙は無さそうだ。
「あんたはそろそろ横になれよ。もう傷が治る頃だと思うけど、それまでは絶対安静だからな」
「はい」
ボリスは優しく私を寝かせてくれた。
私はボリスのファーを何となくいじりながら、頭のいいチェシャ猫を見上げる。
「私はずっと森で暮らしたいです。ダメなんですか?」
不安になる。ボリスは私の事が邪魔なんだろうか。
するとボリスは苦笑した。
「まさか!ダメなわけないだろ?でもさ、皆あんたを心配してるんだ。
一度会って、ちゃんと記憶取り戻さないと。
その上で、森を選んで住んでくれるなら嬉しいけどな」
そう笑ってウインクし、私の頬に口づけた。
「……でも、それはないだろうけどな」
でもそれは私に言ったのではなく。独り言のような悲しそうな声だった。
だから私は、今度はこちらからボリスの頭を撫でる。
するとボリスは目を細めてゴロゴロ喉を鳴らし、本物の猫のように私に寄り添った。
そして私の首筋に頭を埋めると、切なそうに言った。
「あんたが一番最初に遊園地に来てくれてたらな。そうしたら、俺は絶対に……」
その後は聞き取れない。ボリスの表情は見えないままだった。

「さ、八時間帯後に会合に行くからもう寝るぞ」
ボリスがピアスに声をかけると、片づけを終えたピアスも顔を輝かせる。
ピアスがいじめられているようにも見えるけど、この二人は意外に仲がいいようだ。
「ナノ!また一緒に寝ていい?」
ピアスが目を輝かせて聞いてくる。
「どうぞ」
「やったぁ!」
「俺も俺も!」
キノコは三人寝られるほど大きい。
たちまち両脇にピアスとボリスが潜り込み、私にひっついてきた。
そして三人でふざけあっているうちに、だんだん眠くなってくる。
――キノコのベッドでネズミさんと猫さんと一緒におねむですか。
この上なくメルヘン。私の顔もほころぶ。
後は自分が包帯だらけじゃなかったらいいんだけど。
うとうとする中、どこか遠くからクジラの声が聞こえた気がした。
そんなことさえ当たり前に感じるほど、森の夜は美しく穏やかだった。

5/6

続き→

トップへ 小説目次へ

- ナノ -