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■森の愉快な仲間たち・上

「…………」
目の前を、ふさふさの尻尾がちらちら揺れている。
私はそーっとそれに手を伸ばした。すると、つかむ寸前にふいっと避けられる。
宙をつかんだ細い手を何となく見ていたらまた目の前を尻尾がユラユラする。
もう一度、私はそろーっと手を伸ばす。
「!」
またも、つかむ寸前に逃げられた。そしてまた尻尾が揺れる。
今度こそ、と私がキノコのベッドからさらに身を乗り出そうとすると、
「あーっ!ボリスいいな、いいな、いいな!俺もナノで遊びたい!!」
ピアスが騒々しく駆けてきた。というかナノ『で』?
すると、私の前で尻尾を揺らしていたボリスがチッと舌打ちする。
「ったく、せっかくナノが喜んでたのに邪魔しやがって」
――喜んでたんですか、私?
子猫じゃあるまいし。でも退屈だからちょっと夢中になっていたのは確かだ。
……かれこれ三時間帯ばかりこれで遊ぶくらいには。

大分よくなってきたとはいえ、私はまだキノコのベッドから動けない。
記憶も戻らず、ボリスかピアスがそばにいないととても不安になってしまう。
そういうことを声に出した事はないけれど、二人はいつもどちらかが私のそばにいてくれた。

戻って来たピアスは得意そうに、集めてきた食材を見せてくれた。
「ナノ、ナノ!君のためにチーズをいっぱい持ってきたんだよ!」
「あのなあピアス……怪我で寝込んでる奴にチーズなんて消化に悪いもの出すなよ。
やっぱお魚さんだよな。ナノ」
「それもどうでしょう?」
私はポツリと呟くけど、二人とも聞いていないのか、チーズか魚かで論争している。
やがて、二人の間で合意が交わされ、夕飯が作られ……。

「おいしいです」
私はキノコのベッドに座り、骨まで柔らかく煮込んだお魚のリゾット(たっぷりチーズ入り)を食べる。ピアスは嬉しそうに、
「でしょでしょ?チーズは最高だよね!」
「ばーか、ナノはお魚さんが美味しいって言ったんだよ」
と容赦なくピアスを殴る。するとピアスは頭を押さえ、
「くすん……」
と涙目。私は可哀相になって皿を膝の布団の上に置き、
「よしよし」
と頭を撫でる。するとネズミさん破顔一笑。嬉しそうに私に微笑む。
すると今度はボリスが不愉快そうにする。
「ナノ、汚いネズミを撫でないでよ。だいたい、あんたが怪我したのだって、遠い原因は帽子屋ファミリーにあるんだぜ?」
「う、うわ、それ言わないでよ、ボリス!!」
ピアスが慌てるけどボリスは冷たく続ける。
「あんたが大けがして、また記憶喪失になったあの爆発。帽子屋ファミリーの対抗勢力が仕掛けたんだ。あんたはそれに巻き込まれたんだ」
「……?」
さっぱり分からない。
ただ『帽子屋ファミリー』というのが悪い奴なのだとは分かった。
ピアスまで悪い奴には思えないけど。
「くすん。ごめんねナノ。怒ってない?ナノは怪我が元に戻っても、ずっと森にいてくれる?」
ピアスは心配そうにしている。私は微笑んだ。
「怒ってませんよ。それに、私ならもちろん、ずっとここに置いてほしいですよ」
そう言うと、ピアスは『やったぁ!』と飛び上がる。
でもボリスは首を振る。

「それはダメだ。森にずっといるのは」

「え……」
私はボリスを見る。賢いチェシャ猫の瞳は冷静だった。
「あんたが記憶のある状態でここにいたいって言ってくれたなら、俺は帽子屋さんとかトカゲさんをどうにか排除してでも、森にいてもらう。俺もピアスも大歓迎だ。
でもあんたはこんな状態だし、あっちはあっちで大騒ぎだしな。
知らない顔してここにいてもらうのは、あんたのためにも良くないよ」
「あっち?大騒ぎ?」
私は首をかしげた。


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