続き→ トップへ 小説目次へ ■争奪戦の勝者(?) 赤のチェックの部屋は毒々しい。 そう思いながらも私はベッドでゴロゴロしている。 あれからそれなりの時間帯が過ぎた。 役持ちの人たちが(多分退屈してお遊びで)私の争奪戦を始めた。 が、だんだん洒落にならない事態になってきて挙げ句、エースに貞操を奪われる寸前になった。 そしてしんがりに登場したペーターに助けられた。 が、なぜか彼の自室に連れてこられ、それから私はここに滞在している。 連れられた当初はショック状態で口もきけなかったけど、今はそれも治った。 ……で。 「ナノーっ!!ナノ、ナノ、ナノ!!」 ペーターはゴロゴロしている私にずっとずっとずっとまとわりついている。 抱きしめ、頬ずりし、一緒に横になる。 一緒に(もちろん何もせず)寝て、一緒に食事を取り、一緒にお茶を飲み、一緒にゲームをする。 その間、彼は中身のない愛の言葉を壊れた機械のごとく、ささやき続けている。 たまに仕事で渋々外に出るものの、たいていは数時間帯もしないうちに猛ダッシュで帰還する。 一国の宰相と言えば、王、女王に次ぐ地位なのに。 「ペーター、宰相のお仕事はいいんですか?」 私は特に抵抗もせず抱きしめられながら聞く。 「いいんです!あなたと過ごすことに比べたら、そんなものどうだって!!」 そう言って抱きしめてくる。 ――はあ、私も私ですね。 あんなことがあったのだから、男性にもう少し恐怖心を抱くべき。 なのに、ペーターのスキンシップはなぜか平気だ。 ペーターの行動には、エースと違って性的なものを感じないからかもしれない。 それに、気のせいかペーターはやけに私と近しい感じがする。 あまりにも近すぎて身の危険を感じなければ、警戒心もわかない。 だから私も特に拒まず、何となくだらだら一緒に過ごしている。 ペーターは何か言えば高速で持ってきてくれるし、むしろ私が外に出る気を起こさないよう、あらゆる手回しをする。 ――でもクローバーの塔、戻らないと……。 ただ、戻るためにはハートの城を抜けなくてはいけない。 エースの根城である城を。 彼に再会する危険を冒して。 もう夜に思い出して飛び起き、ペーターに心配されることはなくなったけど。 私は、エースが怖い。 単に貞操を奪われかけたというだけではない。 クローバーの国になってから、突然豹変し、私を殺そうとしたり傷つけようとしたりする。 そんな、何か得体の知れない存在に変わった知人が怖いのだ。 そしてナイトメアに隠し事は出来なかった。 夢の中で黙ったままの私から、何が起こったかを読んでしまった。 『そんなことがあったんじゃ外が怖いのは仕方ない。塔のことはこちらに任せてくれ。 ペーター=ホワイトが君を傷つけることは絶対にないから、しばらくハートの城でのんびりするといい。 気持ちが落ち着いたら教えてくれ。グレイを迎えによこすから』 一切私を責めず、そう言ってくれた。 お世話になりっぱなしなのに本当に申し訳ない。 自己嫌悪で私はまたゴロンと転がる。 そうすると、真横で一緒に転がっていたペーターと目が合った。 「ふふ。可愛らしいですよ、ナノ」 手を伸ばして身体をよせ、私に頬ずりする。 「どうも」 私もペーターの耳を撫でる。 嬉しそうに触らせてくれるペーター。 「ナノ……僕は、本当に幸せです」 また抱きしめてくるペーター。大きくて暖かい安全なウサギさん。でも、まだ私を部屋から出してはくれない。 一番最後に私を捕まえた白ウサギ。 彼の腕に閉じ込められ、私は次第にまどろんできた。 そしてふと思う。 ――そういえば、お城の王様と女王様に、まだご挨拶してませんでしたね……。 5/5 続き→ トップへ 小説目次へ |