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■はた迷惑な争奪戦・8

ペーター=ホワイトは私を見て、いつものように騒ぎ立てたりはしなかった。

ただ怒りの形相で、まっすぐに銃口を、エースの頭に向けている。
「あはは。ペーターさん。人の恋路の邪魔をするのは良くないぜ」
「ナノから離れなさい、エース君……」
ペーター=ホワイトの目には憎悪が宿っている。
今すぐ乱射したいのを、私がいるためか必死で抑えているようだ。
エースは状況を分かっているだろうに、
「ペーターさんも混ざる?何なら先にやらせてあげてもいいぜ」
「彼女を侮辱するな!!」
鼓膜を破るような銃声。
銃弾は、すっと頭を下げたエースの真上をかすめて通りすぎた。
「怖い怖い。彼女に当たったらどうするんだよ」
そう言いながら、エースはやっと前をしまい、服を整えだした。
「先に、彼女に何か覆う物をかけなさい!」
ペーターが命令する。
「えー、この格好のままが可愛くない?もう少し鑑賞してから――」
エースの戯れ言は、第二の銃声で封じられた。
「あはは。短気だなあ、ペーターさん」
髪の先を銃弾がかすめたというのにエースは一向に動揺しない。
笑いながら赤いコートを脱ぎ、バサッと私の上にかける。
ようやく大事な部分は隠れたものの、本音を言えばエースの衣服には触れたくもない。
ペーターはなおも高圧的に命令する。
「両手を挙げて立ち上がれ!彼女から離れろ!!」
「はいはい」
言われるままエースは立ち上がる。私は全身が石にでもなったように動けない。
エースは少しずつ私の上からどく。
そしてエースと私が十分な距離を取ったところでペーターは、
「永遠に時を止めろっ!!」
エースに向け、銃弾を放った。軽やかにかわすエース。
「あはは。ペーターさん。短気なのは良くないぜ!!」
どういう反射神経なのか、エースは至近距離で撃たれた銃弾を次々に交わしてのける。
そして身を翻したかと思うと、これまた驚異的なスピードで駆け去った。
ペーターはなおも撃っていたが、やがてエースが回廊の向こうに消え去ると、舌打ちをしてようやく銃を収めた。
「次に会ったときこそ必ず息の根を……ナノっ!」
そして私に駆け寄ってきた。
私はペーターにお礼を言おうとした。
助けてくれてありがとう。
タイミング良すぎです、見てたんですかてめえ。
ろくでもないけれど、たまには役に立つんですね。
「…………」
でも声が出ない。なぜか全く声が出なかった。
身体が震え、何だかとても寒い。
「ナノ、ナノ。すみません。怖かったでしょう。
こんな危険な連中がうろつく塔などに、あなたを置くべきではなかった」
というか一番危険な人物はあなたの部下だろう。
ツッコミは入れられずペーターは、エースのコートを着た私を抱き上げた。
そして優しい声で、
「さあ、行きましょう」
そう言って歩き出す。しかし私は異議がある。
――あの、私の部屋、本当にすぐそこなんですが……。
お礼はしたいけど、その前に服をちゃんと着替えたい。
どこのビデオに出演する気だおまえと言いたくなる格好を何とかしたい。
あとシャワーを死ぬほど浴びたい。歯も磨きたい。
でもペーターはペーターだった。
「ナノ。僕の部屋なら安心です。そこでいつまでも暮らしましょうね」
――え。ブルータス、おまえもですか!?
しかし抗議の言葉はどうしても喉から出ず、私はとんでもない格好のままペーターに運ばれていった。


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