バスケ部の送別会ため、黒子と共に靴箱に向かっていた青峰だったが、卒業証書を忘れたことを思い出した。黒子には先に行ってもらい、教室に引き返すと、黄瀬がタイミングよく教室から出てきた。窓から差し込む温かな光に産毛が輝いた。
「…卒業おめでとう」
 黄瀬は柔らかく笑った。耳に心地良い声が、青峰の耳に残響する。
「先生、お願いがあるんすけど」
 緊張で全身の血流を直に感じた。どくんどくんと、目まぐるしく血が巡る。それでも今言わなければ後悔する、と唇を噛む。黄瀬の目にしっかりと視線を合わせた。
「もう一回、追試してくんね?…………今度は、間違わねえから」
 黄瀬は元々大きな目を見開いた。満月のように丸くなったその反応から、青峰はちゃんと伝わった、と目を伏せた。意味は伝わった。しかし、答えがないということは。その時、黄瀬の足が青峰の方へと踏み出された。
「……それはこっちのセリフなんスけど」
 顔を上げると、黄瀬の顔が目に飛び込んできた。久しぶりにこんなに近くで見る。整った造形が、子どものようにくしゃりと歪んで、一筋の涙が黄瀬の頬に道を作った。青峰の心臓が跳ねた。
 微妙な距離を保ったまま、黄瀬は頭を青峰の肩に預けてきた。ほんとにいいんスか?と小さく呟いた。鼻孔をくすぐる香りは疑いようもない程に、恋い焦がれたものだった。
「……せんせー、好きだよ」
 肩が温かい水分で濡れるのを感じながら、青峰はもう一度、あの時と変わらない言葉を伝えた。
「しつこいガキは嫌いっスよ」
 湿った声でそう言って、黄瀬は笑った。釣られて、青峰の目にも薄い涙の膜がはる。青峰は黄瀬の背中を撫でることもしなかった。その体勢のまま、たくさんの涙と笑顔が廊下にはみ出した。





 洒落た服に身を包んだ黄瀬が、スマートフォンを片手に空港を歩く。きょろきょろと頭を動かしているところを見るに、誰かを探しているようだった。
「もしもしー涼太、今どこいんの?」
「こっちの空港着いたとこっスよ。青峰っちは?」
 肩と頬でスマフォを支えながら、黄瀬は腕時計を確認した。
「お前まだ慣れねえの。「青峰っち」って」
 呆れたような声に、目の前に本人がいないにも関わらず黄瀬の顔が赤く染まった。
「アンタの順応性が高すぎんだよ」
「…照れてんのか」
「うっさいっスよ」
 毒づきながらも、離れた場所にいても、二人は笑い合った。

 黄瀬の左耳のピアスは鈍く輝く瑠璃紺に色付いていた。





あおげば愛し、いざ共に




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