関係はそのまま平行線をたどり、青峰は三学年に進級した。
 今年度の配置では、黄瀬の名前の欄に高校三年の文字はなく、ひどくほっとしたと同時に完璧に関係を断ち切られた現実を突きつけられた。黄瀬は、首元を手で覆った。頸動脈をあやすように、そっと撫でた。
 青峰を担当している同僚から聞く話と時たま遠くから見る姿で、成長を感じていた。あと一年も経たないうちにこの学校から旅立っていく。それどころか噂によると海外に行くらしい。いつまでも引きずっているのは自分だけだ、と黄瀬は自嘲ぎみに笑った。




 高校最後の一年間はあっという間に過ぎ去った。卒業式の朝、キンと張りつめた空気の中、黄瀬はネクタイを結び直した。卒業アルバムを交換してはメッセージを書き合う生徒たちを見て、感慨深い気持ちに浸る。この学年とは特に縁が深かった。黄瀬は、廊下を歩きながら、各々の黒板に描かれた色とりどりの落書きを眺める。三年前、強張った表情を浮かべていた彼らは、これから新しい扉を開こうとしていた。
 教師用の席に座った黄瀬は、入場してくる生徒の顔をそれぞれ見つめる。あの子、お弁当くれたな。あいつ、俺の授業よく寝てたな。どんなことであれ、大切な思い出には違いなかった。列の中に青峰を見つける。胸元の赤い首飾りが、風に舞って届かないところに飛んでいきそうだと思った。卒業証書授与の際の、しっかりした返事に、柄にもなく涙腺が緩む。振り返らない背中に成長したことをひしひしと感じた。
 校長の挨拶、送辞、答辞、卒業式は目録通りに進んでいき、卒業の歌を歌う段階になった。あおげば尊し、わが師の恩。重なり合った歌声が体育館に木霊する。ちゃんと教師として役に立てただろうか。ここにいる卒業生の通り道になれたか、と教師陣も熱い思いを胸に抱いた。潤みかけた黄瀬の目が、またも褐色の肌を見つける。今こそ別れめ、いざさらば。毎年聞いているはずの歌詞に胸が詰まる。二度と会えない、というわけでもないのかもしれない。けれども幸運にも交わっていた道が離れていく。思い出になってしまうその前に、また子どもみたいな笑顔で名前を呼んでくれないかと身勝手な想いを届けたくなった。

 卒業式が終わり、友達と抱き合って泣く桃井や、目元が赤くなっている黒子を見て、青峰も少し涙目になった。三年間、本気でバスケして、いつだって、突き離されたその後でさえ、ひよこ頭に振り回された。
 授業中だけかける黒ぶちの眼鏡を、チョークで汚れた指を気にして手の甲で上げる癖、「ちゃんと英語勉強しろ」といつになく真面目な目付きをして出席簿で頭を軽く叩かれたこと、夏休みに誰もいない体育館でアイスを食べたこと、二人でふざけ合っていたらいつもテツに呆れた顔をされたこと、追いつめられた時「無茶しすぎ」と頭撫でられたこと、振り返れば一年にも満たない思い出ばかり思い起こしてしまう。これから先きっと、英語を使うたびに聞くたびに、芯の強い真っすぐな笑顔が目に浮かぶんだろう。青峰は、目尻を親指でなぞった。


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