"よろしくお願いします"

低く、艶のある聞き馴染みのある声がスタジオに響く。相手役なのであろう可愛らしいモデルの女性が小さく黄色い声を上げる。騒ついているそれらを横目に私は"私の相手役"である青葉つむぎと最終チェックを行っていた。併せてスタイリストさんから髪の毛の微調整をされる。


「で、これ...つむぎ?聞いてる?」

カシャカシャとシャッター音が鳴り響く中、ひたすらに私は打ち合わせとして撮影のポーズだったり表情だったりを彼に話しかけていたのだが、彼はスタイリストさんが居なくなった頃から私を生暖かい目で見つめてきていた。耐えきれなくなり、メイクが崩れるかもしれないが頬杖をついてジト目で見つめ返すと相手はクスッと余裕そうな笑みを浮かべる。


「そういうところ、零くんに似てきましたね」

「どこがぁ?まだ老いぼれてないんだけど」

「前に英智くんが言動も家柄も可愛くないって言ってましたよ」

「適切な対応でしょ。つむぎに冷たくしてないだけマシなんだからね」


そう言ってふん、顔を背けると目に入ってくる撮影中の愛おしい人。可愛い女の子と肩を並べて美しい表情を浮かべている姿を見ていると、なんだか自分が劣っているような、私よりも他にお似合いの子がいるのではないかと切なくなる。撮影を見つめつつ、小さく息を吐くと隣に座っていたつむぎがまた口を開いた音がした。


「...いいんですか」

「なにが」

「他の人の前でそんな可愛い顔をして」


零くんに怒られちゃいますよ
つん、鼻の頭を指でつつかれる。
突かれた場所を手で押さえてちょっとだけ睨みつけた。
昔からこの人の"悪気のない"妹扱いが苦手だ。


「流架」


つむぎと向き合っていると、向こうの方から聞き慣れた低い声に名前を呼ばれた。仲が良い事はオープンにしているが、私達が名前で呼び合っていることはあまり知られていない。何を考えているのか、渋々声の主の方を見ると今まで一緒に撮影していた相手役のモデルさんを下げさせたらしい彼は無言で真剣な...少し不機嫌そうな顔をしてこちらを見つめていた。


「なぁに、朔間さん」

「流架や、こっちにおいで」


口調はいつものお爺ちゃんのくせに顔が穏やかではない。
あの顔は昔の、俺様時代の顔だ。
こうなると朔間さんは止められないだろうし、止められたとしても2人になったときの反動が凄い。大人しく立ち上がるとそれを見ていたつむぎがクスッと笑みを溢した。


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