「朔間さんが何考えてるのか、わかんなくなっちゃった」

そう、小さな声で言うと隣に腰掛けていた彼が目を丸くしてこちらに顔を向けた。観ていたDVDが先に進むのなんてお構い無しに、私も彼に顔を向けて出来る限りの笑顔を浮かべる。彼は丸くしていた目を細め、少し鋭い眼差しになったかと思うと昔を思い出させる強引さで私の肩を抱き寄せた。

「何か不満な事でもあったかえ?」

「うーん、わかんない。でも突然、このままで良いのかなって...虚しくなった」

幸せなのにどうしてだろうね?
そう首を捻って、口角を上げる。私の表情をみた彼は眉を顰めて辛そうな顔をしてから、もう一度ぎゅっと私を抱く腕に力を込めた。

「...今更、離れらんねーぞ」

「わかってる。私だって、零くんから離れらんない」

「クッ...離れたそうな台詞吐いたくせに良く言うよ」

余裕が無くなっているのだろうか。昔の口調になりクックッ、喉を鳴らして小さく笑いながら顔を近付けてきた彼は唇を重ねる直前で少し躊躇った。それに気が付かない程鈍い女ではない。確かにもやっとした気持ちの悪い感情はあるものの、彼との恋人としての行為は嫌いではなく寧ろ大好きだ。距離の縮まった彼のシャツをきゅっと握って節目がちに視線を送ると愛おしそうな表情を浮かべた顔が近付き、そのまま唇が重なった。

「...流架」

「...はい」

口付け終えた後、甘い声で名前を呼ばれる。
久々にこういう甘ったるい雰囲気になったからか、凄く恥ずかしくて顔が熱い。きっと、耳まで真っ赤になっているのだろう。零くんの顔が、見れない。

「お前がこんななってる時に言うつもりじゃ無かったんだけど...」

「うん、」

「これ」

「.........え」




差し出されたのは小さい箱。
女の子なら一度は憧れるだろう、白い小さな...ソレ。
突然の事で頭が真っ白になり絶句していると彼はその小さい箱に手を掛けて、中に入っていた綺麗なシルバーのリングを見せた。

「っ、ぁ...」

その出し方はズルいよ零くん。
これだと本当にプロポーズされてるみたいじゃん。
じわじわと溢れてきた涙で目に膜が張る。
瞬きしたら涙が零れ落ちてしまいそうだ。必死に我慢するものの、そんな私を見て零くんがまた愛おしそうに笑うから。

「~ッ!」

「流架、俺と結婚しよっか」

「なっ...に...それぇ......」

途切れ途切れに拒否権が無い事の文句を言うと彼が嬉しそうな照れたような顔をして私の左手薬指にそっと、優しく指輪をはめた。ぴったりサイズの指輪がキラッと輝く。まるで星のように...ん?星?

「嬢ちゃんの目のように綺麗じゃったから、即買いしてしまったんじゃよ。責任取って貰ってくれるかえ?」

「突然おじいちゃんじゃん...」

「...緊張してて余裕無かったんだよ、悪ぃか」


ふん、顔を背ける彼の耳が赤くなっている事に気付いて思いっきり抱き着いてやる。彼がこんなに緊張して余裕が無かったということは"本当のプロポーズ"なのだろう。しっかりと指輪も左手に付けられたし。

「零くん」

「もう朔間さんって呼べねぇな」

「朔間さん」

「おま、言ったそばから...!」

珍しく大きく口を開けるもんだから彼の八重歯が見える。あ...吸血鬼に噛まれそう、なんて思ったのは秘密にしておこうと直ぐに目線を逸らしたが、お見通しだったらしい。
ニヤニヤとした笑みを浮かべて舌でその八重歯をなぞった。

「エッロイ顔して見てんなよ」

「してないっっ!」

「零ちゃんに噛まれたいって顔してた」

「噛まれたいじゃなくて噛まれそうって...あ」

まずいと口を塞いだがもう遅い。
紅い目を鋭く目を光らせた“朔間零“がニヤァと口角をあげるのが目に入る。

「ほう...お望み通りに噛んでやろうぞ」

「きゅ、急に吸血鬼キャラ出すのやめて!」

「はて?我輩吸血鬼じゃから何言ってるかわかんなぁい」

「出たすっとぼけ!!!!」

さっきまでの甘い雰囲気はなんだったの...
涙も引っ込んでしまって、プロポーズの感動も先ほどより薄れている。せっかくの良い思い出になる出来事だと思ったのにこれじゃあ普段通りだ。

一旦落ち着こうと息を吐くと腕を掴まれる。
突然掴まれたから体が震えた。
恐る恐る、掴んでいる本人を見上げると...真剣な顔をした彼。

「零、くん?」

「流架...あい「待って!!!!!」



零くんが口にしようとした言葉に勘付き、急いで彼の口元を手で抑える。抑えられながら"なんじゃいきなり"と文句を言わんばかりの表情をした彼に、私が今出来る最高の笑顔を向けて。


「!」

「零くんのユニットじゃないけど、せっかくだからさ...」




『歌って!』


ーーーーーー伝えたいんだ【あいしてる】




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