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「(なんであんなところ....行っちゃったんだろ)」

走り去った後、近くにあった公園に逃げ込んだ私はベンチに座り込んであの場所に行ったことを激しく後悔していた。かろうじて涙を流すのは抑えているが、気を緩めたら声を上げて泣いてしまいそうなくらい、今回は精神的に来ている。


「(知ってる...知ってるよ....今回のドラマは零くんが色んな人から情報を仕入れる情報屋さんな事も、仕事で綺麗なモデルさんと撮影してる事も、零くんが私だけを見てくれてることも....全部知ってる。でも...手を繋いでデートするのは....) 私とデートしてからが、良かったなぁ....」



公表して、碌にデート出来てなかったのに。

小さく声を出して無理矢理笑顔を作る。
その拍子に溜まっていた涙が2粒溢れた。
大丈夫、落ち着けば...いつもみたいに笑える。
落ち着いて...何か、考えよう。今度の舞台の台詞....ああ、そういえば今度の舞台は零くんが一緒で....久々に、一緒に仕事が出来るねって...

溢れて落ち着いた筈の涙がまたじわじわと浮かんできて咄嗟に上を向いた。


「流架!」


名前を呼ばれて自然とそちらに振り返る。
振り返った先には汗をかき、息を切らした朔間零が立っていた。彼は私が動かないのを確認するとゆっくりと歩いて近付いてきた。

....何で来るの。


「...仕事でしょ、何で来たの」

「流架」

「さっさと戻りなよ」


朔間さんと目が合わせられない。
声が震えるのを抑えようとすると、冷たい可愛くない言い方になってしまう。慰めて欲しいくせにこうやって正反対な態度を取って可愛くない女だと後悔するのは私なのに。

もう...零くんの彼女が私で本当に良いんだろうか。いつもヤキモチ妬いてばかりの、こんな可愛げの無い女で...。


「流架、こっち向いて」


朔間さんのとびっきり優しい声と共に
そっと左頬に大きな手が添えられる。
仕方なしに彼を見上げると申し訳なさそうに、愛おしそうな笑みを浮かべた朔間さんが私の額や目元に優しく小さなキスを落としてくれる。


「流架」

「な...で、来たの....放って、れば...っ」


突然ぎゅう、と座っていた体を持ち上げられるくらいの強い力で抱き締められて言葉が出なくなる。今まで耐えていたものが全部流れてきて止まらない。


「流架、ごめん。断るべきだった」

「....」

「交際、公表してから蔑ろにしてごめんな。俺の1番は流架だけだから」

「うぅ〜.....おしごと、なの、わかってたけど...やだったぁ...」


うんうん、相槌を打ちながら涙を拭ってくれる零くんにしっかり立ち上がってぎゅうっと抱き着く。そのままごめんなさい〜と泣きながらの弱々しい声で言うと彼はフ、と笑うように息を吐いてからまた力強く抱き締めてくれた。

と、その途端に。
わっと湧き上がるような声が聞こえてくる。
驚いて顔を上げると、公園の周りには多数の人がいて私達に安心したような笑みを向けてくれていた。その中にはさっきの現場にいたと思われる撮影部隊もいて、零くんと顔見知りの監督が顔を見合わせて笑っていた。


「こりゃ、さっきの全部使われるな」

「えぇっ!?」



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