『ね〜朔間さん?撮影終わったらぁ、ミキとご飯行きません?』

「...すまんが、撮影の後も暇では無くてのう」


昼からドラマの撮影が入り、げんなりしているところに耳障りな甘ったるい作り込んだ"女"の声がしてさらに気が滅入る。交際中である愛する彼女の落ち着いた声が恋しくなって小さく息を吐いたと同時に監督から声が掛かった。


「じゃあ次のシーン」

「はい」

「朔間くんはこっち側で...そう、それで」

「(我輩がターゲットの女とデートして情報を集めるシーン...演技とはいえ、他の女とデートなんて気が引ける) 」


指示を受け、素直に従うものの正直やりたくない。
昔から女にベタベタされるのは嫌いだし、この相手役は俺に好意を持っているらしい。露骨に女を出してきて嫌気がさす。監督もそれに気付いているようで、俺に指示を出すときに少しだけ申し訳なさそうな顔をしていた。....大方、交際中の流架のことだろう。この監督の作品に彼女は何度も出演しているし、顔見知りなのも頷ける。


「(まあ良い、NGを出さず早く撮影を終わらせれば良いんじゃ)」

「よーい!...」


相手役の女と手を繋ぎ、楽しそうに街を歩く。
視線の隅に何か素早く動くものを見つけ、演技の途中さり気無くそちらの方へ顔を向けると"愛おしい彼女"が走り去る姿があった。ーーーーまずい。


「流架!」


思わず名前を大声で呼んで、相手役の女の手を振り切ろうとする。が、その女は腕にしがみつく様にくっついており、離れなかった。


『朔間さん、どうしたのぉ〜?ミキと一緒にいよ?』

「すまんが離してくれんか」

『撮影はどぉするの?』


そう言われて、撮影を中断してしまった事に申し訳なさを感じて監督とカメラの方を向く。監督は動揺している撮影部隊にシーッと声を上げないように指示し、俺の方を見てから困ったように、でも何か興奮したような笑顔を浮かべて頷いた。


『ね〜、ミキの事大事じゃないのぉ?』

「悪ぃけど、俺の大事な女はアイツしかいね〜から」

『っ!?』


相手を威嚇するような低い声で告げるとその女は怯んで腕を掴む手の力を弱めた。その隙を見て腕を振り解き、彼女が走り去って行った方に全力で走る。

後ろでなにやらバタバタと撮影部隊が追ってきていたが今はどうでもいい。ーーー早く彼女を見つけなければ。


「クソッ、んーでこのタイミングなんだよ...!」


いつも彼女が我慢している事は誰よりも知っている。
今回ああやって走り去ったのは、"彼女との交際を公表し、まだ彼女とデートを出来ていないから"だろう。我慢させ過ぎた、許して貰えると心のどこかで思っていた自分の愚かさに腹が立つ。


「(流架...)」


ああ、早く会って抱き締めたい。






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