アイドル科に転入して数ヶ月。
紅一点である事に未だに慣れない私は今日もひたすらに隠れるように学生生活を送っていた。のだが...
膝の上に乗ったある男の頭をジトっと見つめる。
いつも何かしら突っかかってくるこの男は、今日も私を探し出してこうやって無防備に整った寝顔を見せつけてくる。気配を無くした人から"みーつけた"なんて背後から言われてみて欲しい、毎度毎度心臓が壊れそうな程びっくりする。
「...はぁ」
小さく溜息を吐いて空を見上げる。
私はいつになったら"何も気持ちの無い彼"から解放されるのだろうか。彼は勘の鋭い人間だから、きっと必死で隠している私の気持ちの変化にも気付いているのだろう。それでいてこうやって私に近付いてくるとは。罪な男である。
「...なぁに溜息ついてんだよ」
「!」
突然膝元から聞こえてきた声に驚き咄嗟に下を向くと、さっきまですやすや寝息を立てていたとは思えないくらいぱっちり開いた赤い目と視線がぶつかった。
「朔間さ...いつ...」
「ずっと。お前見てた」
普段は隠しているくせにたまに見せる全てお見通しと言っているような目で真剣に見つめられ体温が上昇する。目を逸らそうとまた空を見上げようとすると、髪を軽く引っ張られた。"逸らすな"と。
「...お前、そんな顔も出来んだな」
「どっ...んな顔ですか...」
ああ、もう。その無駄に整った顔で、穏やかに笑みを浮かべるもんだから男子に耐性がない私はすぐに赤くなってしまう。チラッと見えた、尖った八重歯が更にかっこよく見えた。
「あーお腹空きました!朔間さん、膝枕おしまい!!」
「咲良」
名前を呼ばれて固まった。
ずるい。
ずるいずるい。
急に名前を呼ぶなんて。
今までお前呼びで私の名前知らないんじゃないかと思ってたのに。
略されてるけど初めて呼ばれる呼び方にドキドキが止まらない。
嬉しさと恥ずかしさと入り乱れて両手で真っ赤になった顔を隠す。クハッと噴き出す音が近くで聞こえて、彼には勝てないなぁと心から思った。
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