「ああ、もしかして朔間先輩?」

幼馴染は察したように笑って隣に肩を並べた。
"じゃないとこんな所来ないよな"と呟いてから呼び出してきた彼の元へと足を進め始める。慌てて着いていくと歩幅を合わせてくれた。昔から優しい男だ。

「今の時間なら多分軽音楽部の部室にいると思うけど...出来るだけ目立たないルートが良いよな?」

「もちろん。この学校じゃあ、この見た目だとかなり目立つだろうし」

「確かに、制服も違うしな」

軽く笑いを溢す幼馴染みをチラッと盗み見る。
確か彼は生徒会に所属していて副会長を務めているのではなかったか。ピンで留められた前髪と手に持っている書類に気付いて仕事の邪魔をしたのかもしれない、と少し反省した。この間、身内から忙しそうにしていると聞いた気がする。

「真緒って」

「ん?」

「いや....忙しそうなのにごめんね」

「いいって。俺と一緒の方がお前も動きやすいだろ」


ニッ、口角を上げてこちらをみた彼は流石はアイドルと言わんばかりの輝きを放っていた。"彼等"にはまだ程遠いけれど、彼も立派にやっているのだと感心する。


「(離れてるとわかんないよなー)」

家が近く、幼い頃から付き合いがある幼馴染ではあるが今、私と彼は別々の場所にいる。学校も違ければ学年も違うし、更に言うと私は彼よりも先にアイドルとしてメディアに露出している。常に一緒に居た小さい頃とは違って、もう彼らがどんな事をしてどんな風に変わっているのか間近で変化に気付けない事に少し寂しさを感じた。



暫く歩いていると校内が騒がしくなっているのに気付いた。アイドル育成学校というくらいだから、まあ音楽や歌が聞こえてくるのは当たり前だろうと思っていたが、それはそんな綺麗なものではなく...どうやらこれはあるフロアのある教室から聞こえてくるようだ。何だか嫌な予感がして真緒を見る。彼は苦笑しながら私を見て、ある教室を指さした。

"吸血鬼ヤロー"という言葉が聞こえてきて察した。
遠目だがその騒がしい教室のドアの上の方に軽音楽部という札を見つける。小さく息を吐いてから幼馴染に向き合った。

「真緒。ここまでで良いよ、ありがとう」

「大丈夫か?」

「うん。お仕事の邪魔してごめんね」

「別に良いって。じゃ、またな」

ひら、片手を振って幼馴染を見送る。彼は私に応えるように軽く片手を上げてから元来た道を戻っていった。私が彼とは別の学校に進学したからお互い会う頻度も減ったのに、何も聞かずに"またな"だけ言ってくれる彼は本当に優男だ。"彼"が懐くのもわかる。

ふふ、口元だけ緩め幼馴染の後ろ姿を暫く見つめた後、自分も気合を入れて騒がしい教室へと向かった。




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