「お、藤咲ちゃん」

朝。
学校に登校し、自分のクラスへと向かう途中に背後から声を掛けられた。このふざけた呼び方はアイツしかいないと思いつつ、振り返ると案の定。教室のドアに寄りかかり、笑顔でこちらにひらひら手を振る美少年。

肩まで伸びた蒼い髪をいつものように1つに束ね、前髪をピンクのピンで留めている。今日も可愛らしさを極める彼に小さく肩を竦めて息を吐いた。

私の仕草に気付いたらしい彼はその整った顔をご機嫌そうに緩めて足を止めた私に近付いてくる。


「水野くん」

「祐で良いって言ってるのに〜!」


一応名前を呼んであげると、ぷ〜と態とらしく頬を膨らませて拗ねたように声をあげる。他の女の子にも同じ事やってるのを知っているのに、思わず笑ってしまった。


「あはっ笑った」


釣られてクスリ、と自然に笑った彼は私が咥えていた飴の棒を引っ張り、強引に奪いとった。そしてそのまま自分で咥え始める。


「欲しかったらあげるのに」

「いーの!...お前も変わんないねぇ〜苺味」


お前好きの女子を敵に回してる私の身にもなれ、という気持ちを込めて文句を言う。しかしそんな含みも意味を為さず、彼はニヤリと意地悪そうな顔をして、からかってきた。


「別に「お前ら、何やってんだ?」


冷静に言い返そうとしたところで、また背後から声を掛けられる。2人でくるりと声がした方を向くと、そこには不思議そうに少しだけ首を傾げる青年の姿。


「「しゅしゅ」」


部活の朝練帰りらしい【しゅしゅ】こと吉野俊介が、スポーツバッグを肩に掛け直しこちらに歩いて来る。隣でニヤついていた水野くんはしゅしゅの方へ駆け寄り、仲良さげに肩を組んでそのまま2人で盛り上がっている。

いつも無表情、クールと言われているしゅしゅも実は全然そんな事なくて嬉しそうにハイタッチかましていた。



私と水野祐と吉野俊介は幼い事から一緒にいる、所謂幼馴染。

だから彼らが身につけているサンリオグッズに何も違和感を感じないし、サンリオ男子な事も知っている。彼らの細かい表情の変化にも他の人より気付いている、つもりだ。


呼び方だって、あだ名で呼んでも名前で呼んでも嫌がられる事は無い。ただ、水野くんに関しては以前名前で呼んでいたが、彼がチヤホヤされるようになってから苗字呼びに変えた。

彼は、苗字呼びが気にくわないらしい。
しゅしゅはそのまま呼んでいるのもあって、不満そうにしているのをよく見かける。罪悪感は、無いといえば嘘になる。




「あ、そういえば菜摘さ〜」






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