ーーーピピピピッ
部屋に無機質な電子音が響く。
体温計を身体から離して画面に表示された数値を見て、息を吐いた。ーーー39.3℃、確かに昨日体調が優れず早めに横になったのだけれど、一気にここまで熱が上がるとは。夏風邪はしつこく長引くから嫌いだ。
「...はぁ」
流石の私でも39℃以上の熱では動く気力も無い。
本当はご飯を食べて薬を飲むべきなんだろうが...生憎両親は共働きで居らず、兄も家を出ている為居ない。お粥を作る元気なんて無いし、とりあえず水分だけでも摂って寝ておこう。先ずは学校に連絡せねば。
そう思い、枕元に置いていたスマホを手に取る。
電話をしようかと思ったが何故か一緒に登校している幼馴染が頭に出てきてメッセージアプリを起動させていた。...一緒に行けない旨を先に伝えても良いよね。
「ん...」
ああ、ダメだ。熱で視界が揺らぐ。
文字を打とうと数回画面をタップしたが碌に文字が打てず誤字ばかり。打ち直すのが面倒で通話ボタンを押した。何回か呼び出しのコール音が鳴った後にブッと音がして彼の声が聞こえてくる。
『もしもし、どうした?』
家に誰も居ないからだろうか、熱でキツいからだろうか、彼の優しい声を聞いたら涙が出てきた。
「ゆ、う」
『菜摘?泣いてる?』
「ごめ...熱、出て」
悲しくて泣いているわけではない、と説明しようとすると電話の向こう側でガタガタと慌てた音がする。朝ご飯でも食べて居たのだろうか。小さく"ちょ、何?"彼の妹の声も聞こえてきた。
『悪い由梨、これ冷蔵庫入れといて』
「あ...祐?」
『待ってて、直ぐ行く!』
そう言うと電話の向こうの音は消え、かわりに通話の終わりを告げる電子音が聞こえてきた。スマホを耳から離して待ち受け画面に戻ったそれを枕元に落とす。
「(別に呼ぶつもりじゃ無かったんだけど...)」
ドアの方からガチャガチャ鳴るのを遠くで聞きながら目を閉じた。家飛び出して来てくれるのが嬉しいとか、絶対言ってやんない。
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