6月上旬。
梅雨入り直前特有の少しじめっとした空気にじわじわ汗が滲む。髪のセットを終わらせた私は鏡と櫛を鞄に戻し鉢巻を首に掛けて、トイレに行くために友人に断りを入れて席を立った。自分から微かに香る日焼け止めの匂いが、夏を感じさせる。

「あ、菜摘じゃーん♪」

聴き慣れている声と軽い喋り方。
首だけ後ろの方に向けるとやはり頭に浮かんだ彼がハチマキを首に掛けて手を振っていた。無視せずにその場に留まっている事が分かると彼は私に近付いてきた。

「水野くん」

「なぁに、今日の髪型可愛いじゃん」

目を細めて嬉しそうに笑う幼馴染。
私が二つに結っている髪を少し束で掬ってから前髪を整えて、自分が前髪に付けていたピンを私に付けた。

「ほい、御守り」

「あはは、前髪落ちてきてるし」

ピンを外した事によって目を隠すように落ちてきた彼の前髪。指先で整えてやるが、彼の前髪は長くて私を見下げている体勢ではすぐに落ちてきてしまう。

駄目だ、と諦めて手を引こうとすると彼の大きい手に腕を掴まれた。



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