「じゃあどうしろって言うんだよ...。こっちはお前の為にメシ作って洗濯して掃除して、どんだけ時間かかると思ってんだよ!これ以上どうしろっていうんだよ!!」


家で携帯を触りながら寛いでいると、隣の部屋から叫び声、というか怒りの声が聞こえた。ただの兄妹喧嘩かと思ったが男女の喧嘩する声は止まらず、これはまずいと部屋を出る。


「俺だってこんなのしたくねぇよ!もっと遊びてぇんだよ!」

「っ、だったらすればいいじゃない!」

「できるワケねぇだろ...親家にいねぇんだよ。誰かがやるしかねぇだろうが。何が不満なんだよ、どうしてほしいんだよ、俺の何が悪いんだよ!「キモイ!」


妹の方の叫び声が聞こえた。
隣の家のドアノブに掛けようとしていた手を止める。
ふと、現在進行形で険悪な関係の数年会っていない自分の兄のことを思い出した。


−−−−小さい私を放置して出て行った癖に!


自分が兄に言った言葉。
先程叫んだ彼女も同じ気持ちなのかもしれない。
私の場合と彼女の場合じゃ、事の大きさが違い過ぎるけど。


「キモイ!キモイ!キモイのー!」

「由梨ッ!」



兄の祐の声で争う声がぴたりと止んだ。
そしてすぐにバタバタと足音が聞こえる。
私はドアに当たらないよう、近くの壁に寄りかかり出て来るであろう彼を待った。

ドアが開き、彼が出て来る。
気まずそうな顔をした彼は小さくあ、と声を漏らしてから立ち止まった。


「聞こえてた、よな」

「...珍しいね、声荒げるなんて」


側に近付き、項垂れている彼の頭をグイッと自分の肩へ持ってくる。彼は黙ってそれを受け入れ、私の背中に腕を回した。


「大丈夫、祐は頑張ってるよ。...ほら、頭冷やすんでしょ?行ってきな」


数回背中をぽんぽんと叩くと、小さく頷いてから立ち去る彼。最近由梨の反抗期が大変なのは知ってたけど、ここまで祐を落ち込ませるとは。相当溜まってたんだろう、でも兄妹でぶつかれる事が少し羨ましかった。

しばらくしたあとバタバタと足音が聞こえ、しゅしゅと隣の席の長谷川くんが出てきた。そういえば、祐が風邪引いたって言っていたからお見舞いに来てくれてたんだろう。私の姿を見てしゅしゅは困ったような顔をして、長谷川くんは目を丸くした。


「藤咲さん!?」

「ごめん、家隣だから聞こえちゃって」

「そうなんだ...」

「俊介、祐は頼んだ。由梨は任せて」


2人に手を振り、祐の家に入る。玄関にくしゃくしゃになった祐のエプロンが落ちていた。



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