小さく声を出すと兄の背中からひょこっと顔を出した妹。私を見た瞬間、目を輝かせる彼女に丁度帰ってくる頃かと思った。と笑いかけると兄の方が照れたように頬を少し赤く染めた。


「解決したみたいだし、私帰るね」


トントン、靴の爪先で音を立ててから彼と彼女に言う。由梨が「菜摘姉ありがと...」と言った後に不思議そうにすん、鼻を動かした。気付いただろうか。人差し指を口元に持っていきシーっと黙っているように伝える。確実に気付いた彼女はまた目を輝かせた。祐は気付いていないようで、首を傾げている。


「じゃあ、また」

「あっ、菜摘!」


祐の横を通り過ぎようとしたときに手首を掴まれる。空気を読んだのか由梨はそそくさと退散してしまった。


「あの...ありがとな。色々」

「...幼馴染だし、このくらいは」

「そか...助かった」


いつものチャラさはどこへ行ったのか。優しく微笑む彼にドキリ、小さくだけど胸が高鳴った。


「...ほーら!風邪っぴきは早く休む!!元気になって、不満爆発させなくなったら頼ってあげる」


わざとそう言って笑うと彼も釣られたように笑った。
玄関先でケラケラ笑う高校生、なんとも変な光景だ。
笑いの波が引いた後、軽く息を吸った祐は切ない顔をして、私を引き寄せた。「あ、この空気はまずい」と思ったが色々あった後に拒否が出来るほど器用な私では無い。


「...菜摘」

「....」

「何も言わねぇの」

「...どうしていいか、わかんない」


素直に受け止める事も出来なければ、この腕を振り解くことも出来ない。こうやって、女の武器を振り翳しているのにはっきり答えを出さない今の私は大分ズルい女だ。でも1つだけはっきりしていることがある。それはこの男も分かっている筈だ。


「菜摘ってズルいよな。他の男からの告白はすぐに断ってんのにさ〜、そんな事されると俺期待しちゃうんだけど」

「...うん、ごめん」


ズルくてごめん。
でもまだ、心の準備が出来ていない。
彼に全てを打ち明ける準備を、もう少し。


「振られたく無いー...見捨てないで俺と結婚しよ」

「いやなんだそれ」





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