小さく頷いて家を出て行く彼女を見送ってから、祐が着けていたであろうエプロンを手に取る。大好きなメロちゃんをこんなにぐしゃぐしゃにして行くなんて、祐らしく無い。そんなに切羽詰まっていたのか。...気付かなかった。今更ながら距離を取っていることに更に罪悪感を感じる。もっと彼を見ていれば良かった。

静かにリビングの方に戻るとシンクに落ちた人参が目に入ってきた。


「...」


時計を見ると丁度夕飯時。
由梨は食べないとしても祐は空腹のはず。
2人が帰って来てから夕飯の支度をするとなると遅い時間になるだろう。...病み上がりの祐に無茶させるわけにはいかない。


「仕方ないなぁ...」


手に持っていたエプロンを着け、髪を1つに纏める。
まな板の上に出ていた材料で何を作ろうとしていたかは大体予想がついた。勿体無いが、シンクに落ちてしまった人参を三角コーナーに入れてからしっかり手を洗い、包丁を握る。

野菜を均等に切ってから他の材料と一緒に鍋で少し炒め、出汁を入れてから鍋に蓋をした。


「御菜はこれでも良いとして、問題は風邪っぴきの方よね」


幾ら良くなったとはいえ、まだまだ油断は禁物。
何か良いものが無いか冷蔵庫を開く。...そういえば。先程自分の家でも夕飯を作って来た事を思い出した。お弁当と冷凍用に、と多めに作ったからそれも持ってきてやろう。それからこの間お婆ちゃんから大量にフルーツが届いたのもデザートとして置いておこう。

鍋に溜まった灰汁を取り除きながら、空いている時間に生姜たっぷりの卵スープを作る。和食にはお味噌汁が良いかと思ったけれど、風邪っぴきの彼の為に優しい味のスープにした。

なんだか息子と娘を気遣う母親みたいに思えてきて、恥ずかしさと笑いが込み上げてきた。




−−−−−−−−−−−...





「よっし」


調理器具を片付け、一息つく。
鍋には出来上がったスープと御菜。私的に、だが味付けもばっちりだった。そして作業台の上に私の家で作っていた酢の物と御菜が少しずつ。冷蔵庫には小さいサラダとデザートの果物を入れてある。

近くに果物を入れた紙袋と冷蔵庫の中に入れてあるものを書いたメモを置いて、エプロンと髪ゴムを外す。エプロンを畳み置いてから「私も帰って食事するか〜」と玄関に向かい、靴を履いているとドアが開いた。



「あ」





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