「!」


抱き締められるように庇われ、驚いてしまった私は咄嗟に彼の名前を呼ぶ。受け止めてくれている彼が目を見開いたのを見て、自分がしでかした事に気が付いた。はっと口元を手で隠して目を伏せる。


「(どうしよう...)」


取り敢えずさっきぶつかったのを謝ろうと彼の方を恐る恐る見ると。


「...」

「え、」


彼は綺麗な形をした大きな目から涙を零していた。
頬をつうっと伝うその涙に私は慌ててハンカチを取り出す。私の背後でガタンという音と息を飲む音が聞こえた。


「あの、ごめん!こっ、コンタクト?怪我と「ね、菜摘」

「...はい?」


突然言葉を遮られて、あわあわしていた手を止める。何も喋り出さない彼を、困りながら待っていると彼は涙を流したまま何も言わず、私を抱き締めてきた。

彼の匂いと熱を間近に感じドクンと心臓が大きく鳴り、そのままドキドキと煩く、速く動く。密着している体から鼓動の音が彼に伝わってしまいそうでぎゅう、と縮こまる。


「あ、の...」

「もっかい名前呼んでくれる...?」

「へ?...名前?」

「そう、名前」


いつもの彼らしくない、弱々しい声。
そういえば普段から明るく笑顔が耐えない彼が涙を流しているところをいつぶりに見ただろうか。
今彼の表情は見えないが、多分呼んでくれるか不安な顔をしてるんだろう。


「...祐」


小さく呼んで、抱き締められていた腕を解くと涙を溜めて嬉しそうに困ったように笑っている彼の姿。なんだ、偽りじゃない綺麗なそんな顔も出来るんじゃん。と少し顔を緩める。

彼も釣られてふにゃりと顔を緩めてそれからまたふんわり私を抱き締めてきた。


「もういいでしょ、離れ「俺、お前の事女として好きだわ〜」

「....へ?」




なんだか、今まで以上に波乱な生活が続きそう...?








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