「ミラ、荷物頼んだ」

「へ?」


ああ、やっぱりミラを選ぶのか。
少し先を行くユーリとミラがそんな会話をしているのをぼーっと見つめる。ユーリのファンである【ユーリ・エンジェルス】が黄色い声を上げているのを聞いて、なんだか凄く嫌になって俯いた。

丁度今日はここモスクワにパパが来てくれる約束だ。ヤコフにも前もってその事は伝えてあるから、1人で消えても問題はない。この俯いている時間で皆が先に行ってくれることを願う。ぎゅ、目を瞑って頭に過る色々なものを消し去ろうとした。


「レイラ」

「...え」


聞き馴染みのある声に名を呼ばれたかと思ったら、ぐっと腕を引かれる。同時に持っていた荷物が軽くなる感覚。パッと顔を上げると先程ミラと会話し、突如消えたはずのユーリが私の鞄を取り上げ、腕を引いて皆とは違う方向に向かっていた。


「ユーリ...?」

「何ボーッと突っ立ってんだよ、行くぞ」

「えっ、行くってどこに!」


私の声が届く事は無いまま、ユーリはずんずん前に進んでいく。しばらく歩いて辿り着いたのは皆が出るのとは違う空港の出口だった。彼は他人の邪魔にならないような少しスペースのある場所に立ち止まると私の荷物をそこに置いた。...手は掴まれたままだ。

しばらくお互い無言で立っていたが、ユーリが何か迷っていたのを吹っ切ったように息を吐いた。静かに言葉が紡がれる。


「...何かあったろ」

「!」

言葉にはしなかったが、身体は素直に反応した。
小さくだがぴくりと動いたのを見逃さなかった彼はやっぱりなと言うように小さく鼻で笑う。


「無理には聞かねぇ。けど、ヴィクトルが居ない間くらいは周りに頼れよ。..."ミラが心配してた"」


ユーリの"最後の言葉"に全身から血の気が引いていくのを感じる。ドクドクと心臓が嫌な音を立て、怒りと気持ちの悪いモヤっとした感情に支配されていく。なぜ、ここでミラが出てくるの。そんな声が頭の中でリピートしている。


「...そうね」


震える声を精一杯隠して出した言葉は、それだけだった。これ以上喋ると泣きそうだ。ぐっと唇を噛んで涙を堪える。が、ユーリはそれだけでは許してくれなかった。


「俺はともかく、アイツは友達なんだろ」


普段ならなんともないこの言葉で限界を迎える。
泣くのなんてお構いなしに怒りに任せて口を開いた。


「そうね、でも友達だからって何でも突っ込んでくるのは不愉快だわ」

「...レイラ?」

「...そんな優しい顔しないで」



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