『アロー!オフシーズン暇?暇だよね?日本に来てよ』


それは突然だった。
スケート界はオフシーズン入り。
といっても練習は完全に休みになるわけではなく、私はいつもと変わらずリンクで自分の基礎練習をしつつヤコフと共にジュニアの練習を見学したりして忙しない生活を送っていた。

約1ヶ月間練習と指導と見学の生活を送っていたものの昨夜ヤコフからやっと解放された私は完全なるオフの期間を迎えた。ヘトヘトの身体を休めようとベッドに横になり、遅くまで寝てやろうと思っていたオフ1日目の早朝。

枕元に置いていたスマホがアラームのように何度も何度も音楽を鳴らす。しばらく無視していたが本当に鬱陶しい程音が続くからしぶしぶ、寝起きの不機嫌な声で電話に出ると耳元から兄の様に慕っているリンクメイトの元気な声。


「ヴィクトル...?今こっち何時だと思ってんの?」

『うーん早朝かな?早起きしなきゃダメだぞ☆』

「うわウザ」

『ねぇ、レイラ。また俺の隣にたってよ』


おちゃらけていた声が突然甘いものに変わる。
顔の整った彼にこう囁かれると大体の人がどきりと胸を高鳴らせるだろうが、隣を任されるようになって長い私はもう慣れてしまった。


「ヴィクトルの甘い声は慣れた」

『あっはっはっ言うねぇ?』

「でも。ヴィクトルに隣に立ってって言われるのは大好き」

『それは嬉しいな』


ヴィクトルの嬉しそうな声を聞きながら身体を起こす。髪をかき上げてベッドから抜け出した。朝はまだ冷える。キャミソールのまま寝ていた私は上からカーディガンを羽織り、リビングとして使っている空間に移動する。

「とりあえず...向かうにしてもヤコフに許可貰わなきゃ」

『うん、俺からも言っておくよ』

「よろしく」

『じゃあ待ってるね』


"ウヴィーヂムシャ"
小さく囁かれたと思ったら、直ぐに一定のリズムで電子音が聞こえてきた。耳に当てていたスマホを離して画面をタップする。待ち受けにある時計はまだまだ早朝の時間を表示させていた。

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