ユーリ・プリセツキーはロシアンヤンキーである。それは間違いない事実で何度も悪態を突いている姿を私も目撃している。しかし、ロシア大会前にある事に気が付いた。直前にどんなに恐い顔で凄んでいても私には絶対に恐い顔をしないのだ。

ヤコフの下で練習しているときは気が付かなかったが、GPに向けてリリアンコーチと生活を共にし少し彼との距離が出来てからわかった。

中国大会での勇利の演技をみて画面を睨み付け"モスクワでボルシチにしてやるよ"と凄んでいたのに、昼食用に持っていたスプーンも折れているのに、私がユーリの方を向くと困ったように優しく微笑うのだ。

「...スプーン、いる?」

「ああ、ありがとう」

何故彼がこんな表情を浮かべるのかわからないが、私もその笑みに釣られて笑ってしまうから彼はもっと穏やかな顔をする。こんな美しい顔をしている彼は魅力的だけれど、素を隠されているようで...ミラとの距離感に嫉妬で少し胸が痛んだ。


「ミラ、私ちょっと練習行ってくる」

「え!レイラお昼食べてないじゃない!」

「お腹空いてないから空かせてくるだけよ」


嘘を吐いているわけではない。
どす黒い感情で食欲が無いのは確かだ。
思いっきり滑ってこのモヤモヤを吹き飛ばしたい。"さすがは体力馬鹿ね"なんていうミラに後ろ手に手を振ってから部屋を出る。そんな様子を心配そうにユーリが見ていたなんて知らなかった。

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