休憩中、スポーツ雑誌を読んでいると背後に気配を感じた。横目で軽く見るとミラが右肩から一緒に雑誌を覗き込んでいる。そのまま放置し、雑誌に目を戻すとこの間あった大会の記事が目に入った。
「ああ、この大会!」
横からミラの少し興奮した声が聞こえる。
興奮するのも無理は無い。シード権がある俺達は参加していないが、この大会は確かに凄かった。男子も相変わらずある選手で盛り上がっていたが、今回は女子も負けじと話題になっていた。
「この子、4回転跳んだのよね」
「シニアデビューしたばっかりの奴だろ?」
「そうそう、他の人と物凄い差をーーーーああ、そういえばウチにもデビュー戦で盛大にやらかした子が居たんだった」
そう言ってミラが雑誌から目を離してリンクの方を見た。何かと思い同じ様に目をやると丁度リンクから上がってきた女が、壁に手をついている。
「何?」
エッジカバーを掛けながら俺らの方に寄ってきた彼女はふ、と軽く口元を緩める。ただ口元を緩めて口角を少し上げただけなのに、それすらも凄く綺麗に見えて彼女の顔を直視出来ずに目を逸らした。
「アンタがデビュー戦でやらかしたって話しよ」
「ああ、4回転入れてヤコフに怒られた」
「はぁ?お前そんな事したの?」
想像がつかなくて驚く。ベンチに腰掛けた彼女は俺の反応を見ておかしそうに笑った。
彼女、レイラ・ヴォリスカヤは俺の2歳年上のリンクメイト。父親がロシア人、母親が日本人のハーフだが今はロシア名を使いロシアのリンクで生活を送っている。父親譲りの細くて綺麗な金髪と宝石のようなブルーの瞳、それに加えて母親譲りのスタイルの良さーーーまるで人形のように美しい彼女は見た目だけではなくスケートも上手く周りの人間から一目置かれる存在だ。
そんな真面目な彼女が演技のプログラムを高度なものに変えてしまうとは。今の彼女からは考えられない。
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