三番隊隊舎。


「お早う御座います、吉良副隊長」


周りにいる隊士達が頭を下げてくる。
それぞれに挨拶を返しながら廊下を歩いていると前方から良く目立つ女性が歩いてきた。

栗色の長い髪を風に靡かせながら、昔と変わらず頭を下げてくる隊士達に笑顔で挨拶を返している。昔より大人びた表情をした彼女は数歩歩いてから僕の姿に気付き、パッと嬉しそうな顔をした。その瞬間、現れる幼さに自然と笑みが溢れる。


「お早う、イヅルくん!」

「お早う、春」


頭を数回ぽんぽんと軽く叩くと気持ち良さそうに目を細めた。それからうふふ、と笑う。

あれから月日が経ち、僕は三番隊の副隊長に、彼女は十番隊の第三席になった。
多分彼女がこんなに嬉しそうな顔をしているのは隊舎が違うため会う回数も減ってしまったからだろう。

立場が逆転しても相変わらず名の呼び方や接し方は変わらない。


「こんな場所まで来るなんて、珍しいね」


そう問うと、彼女はそうなのよーと言って少し頬を膨らませた。


「元々隊長からお使い頼まれてたんだけど、ついでにって市丸隊長から呼び出されて...」

「ああ、春は気に入られてるからね」

「うえー...だからって仕事中に呼び出さなくても「なんや、嫌そうやなぁ春チャン」


噂をすればなんとやら。
嫌そうな困ったようなでも嬉しそうな表情をした彼女の背後から三番隊隊長が現れてそのまま後ろから抱き締めるようにして彼女を捕まえた。僕は慌てて頭を下げる。


「っ、こら...ギンっ!」

「お早う御座います、市丸隊長」

「お早うイヅル。早起きやなぁ」


腕の中で暴れる彼女を宥めつつ、僕に挨拶を返してくれる隊長。隊長の目は卯ノ花隊長とはまた違った優しさを滲み出している。...春に触れる時は特に、穏やかな顔をするもんだから本当に彼女が大事なんだろう。彼女はいつ気に入られたのだろうか。


「ギンってば」

「はいはい。イヅル、春借りてくで」

「はい」


借りていくも何も、ただ挨拶していただけなのだが。やはり、市丸隊長にも気付かれているのだろうか。僕にとって彼女が特別な存在である事を。






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