あの目には見覚えがある。彼女がまだ幼かった、ジムを巡っていた頃に魅せていた目だ。私はまだジムリーダーでは無かったから彼女と戦闘することは無かったが、近くでその戦いをみていて背筋がゾクゾクしたのを覚えている。あのときの彼女が旅に出て80日も経っていなかったのが、今でも信じられない。
そして同じように、彼女の近くに佇むポケモンを私は知っている。今彼女の腰のベルトについている5体のポケモン達も、全てあの頃のーーー。
「...ダイゴには秘密ね」
目を見開いている私を見て静かにそう言った彼女はリザードンをボールにしまい、笑った。
「今まで何処に」
「サイユウ。感覚取り戻したくて...ダイゴと四天王が不在だからいいかなと思ってロードに行ってきた」
「はぁ、私が怒られるから連絡してから言ってくれ...」
「理由が理由だからあまり話したくなかったの」
いつも横に一括りにしている髪が昔のようにハーフアップまでに結われ、長い髪が雨で頬に纏わりついている。普段とは違い、常に大人びた表情を浮かべるから少しだけドキリとしてしまった。この間のダイゴはきっとこれにやられたのだろう。
「...風邪を引くよ。お風呂に入って温まりなさい」
「全く、誰かさんと同じで本当に心配性なお兄ちゃんだなぁ」
「強いくせに石ばかり集めてる変人と比べないでくれ」
肩を竦めてみせるといつもの可愛らしい笑みを浮かべてくれた。びしょ濡れの主人を見たサーナイトが慌てた様子でタオルを取りに行ったのが視界の端にうつる。私も軽く肩を震わせた彼女に気が付かない気の利かない男ではない。サーナイトがサイコキネシスで飛ばしてくれたタオルを受け取り、彼女の肩に掛けるとバスルームの方に軽く押してやった。
「!」
「ゆっくりしておいで、美しいレディ」
「うっわ気持ち悪い!」
元気よく悪態をつく彼女に思わず笑いが出た。
ダイゴが居なくなって落ち込んでいるかと思ったらその状況を逆手に取るとは。ダイゴ、君が思っているより彼女はずっと強いよ。