other:黒氷の後継

「終わりましたよ」
最も酷い形でお前を裏切った男は、死にました。
二度と動かない躰に語りかける。虚ろに空を睨むその孔雀色に、生命の光が宿ることはもうない。せめて瞼を閉じてやろう、伸ばしかけた手の甲に熱い雫が落ちた。「ーーっ」後から後か頬を伝う雫ーー涙が、この喪失の大きさの形だった。
「っ、ぁぁあああ!!」
湧き上がる激情に任せて、骸をーー片腕と首だけしか残っていない躰を掻き抱く。拒絶でもいい。生きて、動いて、笑っていて欲しかった。こんな終わりを迎えると知っていたなら、自分に心を向けて欲しいなど、そんな事は望まなかったーー喪われてしまう事など、考えてもいなかった。
愛しい物が喪われてしまった。この生の中でただ一人、心から欲しいと願い幸せにしたいと思っていたものが。それも、彼にとって最も酷い、片割れからの裏切りという形で。
「はは、は……」
慟哭は枯れ果てて、後には乾いた笑いしか残っていない。それでも頬を伝う涙は止まる気配が無かった。
いっそ壊れてしまいたかった。愛しい人の骸の隣で狂い死にしてしまいたかった。だが、残された彼の遺志とーー自身に残された最後の矜恃がそれを許さない。
「………」
片腕で抱え上げられるほどに小さくなってしまった躰を、両手で持ち上げる。限りなく丁寧に抱き上げたつもりだったが、それだけの衝撃で僅かに残った肩と腕が砕けてしまった。腕の中には、首だけが残った。
「…行きましょうか」
優しく語り掛けて、流れる髪を撫でる。あえて瞼は降ろさなかった。“彼”には、自分の齎す終焉の姿を見届けて欲しかった。ーー全てが終わったその時に、共に眠ろう。
腕の中の頭を壊れないように抱き締める。遠く遠く、半里以上離れた空にから、銀色の陰が幾つもこちらに向かって来るのが見える。
「さあ、来い」
一匹残らず殺してやる。
滅びの雪が舞い始めた空に溶けた呟きが、終焉の撃鉄を落とした。

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