第六回 | ナノ


▽グレーな回答は嫌い


数年ぶりに会った彼は、何も変わっていなかった。昔からの彼のコンプレックスであるふわふわとした天然パーマの銀髪をガリガリとかく。ああ、そういえば、彼はこの動作が癖だった気がする。彼、坂田銀時はかつてともに攘夷戦争を闘った仲間だ。
銀時は私が知る人のなかで一番優しい人だ。言葉は不器用だが、昔から仲間想いだった。それは今も変わらないようだ。万事屋にいるあの子ども達や下の階の店の店主さん達のやりとりを見てわかった。銀時が江戸で万事屋を営んでいると知り、困った人間を放っておけない彼らしいな、と思った。私が万事屋に来たのは銀時と昔話をするためではない。彼に仕事の依頼をしにきたのだ。


「あいつには、お前の声ももう届かねぇか」

「私の声なんて最初から届いてないよ」


私の依頼の内容は、世を騒がせる過激派攘夷志士、かつて私達が肩を並べて戦った高杉晋助を止めてほしいということだった。高杉は、もはや私達の知らない程遠くに行ってしまった、いや、昔にとり残されてしまったという言い方が正しいのかもしれない。彼の進む道は暗く、狭く、一人分が歩ける道しかないのだ。皆で肩を並べて歩ける道は、彼の前にはもう存在などしていない。
私は高杉が好きだ。狂ってしまった今もそれは変わらなかった。だから止めたいと思った。このまま全てを破壊して、最後は自分をも壊してしまいそうな彼を止めたかった。ただ、力も強さも高杉には及ばない。だから銀時を頼りにきた。
銀時が私に好意を持っているのは知っていた。私も銀時が好きだ。でもそれは仲間としてで、男としてではない。私が男としての感情を向けているのは高杉だけで、それは銀時だって知っていた。それを知ったうえで私は銀時にこの話を持ちかけた。なんて酷い女だろ。きっと、彼は協力してくれる。頼めば絶対に頷いてくれるという確信があったから、私は頼みに来たのだ。


「それで万事屋さん、私の依頼は聞いてくれるのかな?」

「…ひとつ条件がある」

「何?」

「この結果がどうであれ、もう高杉とは関わるな。これを最後にしろ」

「…高杉を、殺すの?」


私の質問に銀時はすぐに答えなかった。予想と違う回答に、自分の声が震えたのも、目頭が熱くなるのもわかった。私が銀時に頼みにきた理由は頷いてくれることの確信と、戦っても殺さずに止めてくれると信じていたからだ。高杉は本気で殺りにくるだろう。でも銀時はそうでないと勝手に信じていた。だから、結果がどうであれ、という言葉が私を動揺させた。


「あいつを殺ったら、お前は泣くだろ。俺はあいつと違って女を泣かせる趣味はねぇから」

「…銀時なら、そう言ってくれると思ったよ」

「条件、飲めるか?」

「飲まないって言っても、きっと、銀時は私の依頼を聞いてくれるんでしょ?」


銀時は黙って、また銀髪をガリガリとかいた。きっと、彼はこの依頼を受けてくれる。昔のように、しょうがねぇな、と言っていつものように私を助けてくれるに違いない。
私は高杉が好きだ。たとえ、もう私の声が届かなくても、同じ道を歩けなくても。


「女を泣かせる趣味はないんでしょう?ねぇ、銀時」


銀時の私への気持ちを利用してでも。高杉を止めたいのだ。
閉じた銀時の口が開くのを私はずっと見つめていた。

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