「あ゛ぁ・・・・熱ぃ」

もう下半身の感覚はない
ただ熱くて熱くて意識が遠のきそうになりながら
それでも致死しない程度のいつもの傷にただうなされて哀れにうなっていた
なんて無様なんだろうって思いながらいつもの影を探すと、電撃に似た音を立てながらステルスを解除した西君が現れた

「だッせー」

「西君、そりゃないよ。私のおかげもあって点数ゲットできたのに。
あー今日は本当に死んじゃいそう」

ねぇ西君聞いているのと視線だけあなたを追えば私の赤黒く染まった下半身をみて興奮している西君。血走った目をして、口なんて半開きで
もう本当にこの人はなんて呆れたふりしながら、私のことを見て興奮してくれているだなんて考えたらなんだか悪い気はしなくて。
いつも私が囮になっては死にかけて星人が油断したところで西君が倒す。囮にされてるのだけど、結果的に西君っていつも助けてくれているわけだし、こんな顔が見られるなら許してしまうのは仕方ないかなって気さえしてる


「ねぇ、西君。」

興奮気味の西君に問いかけたら
気分を邪魔されたように眉間に皺を思いっきり寄せて不機嫌そうにこちら睨んだ

「今晩のおかずにしないでね」

西君が死ねと鋭い一言をくれたところで転送がはじまる
あぁ、なんだかんだ今回も生き残ったんだ

一度失った命を二度目の死を迎えまいと戦う理由なんてなくて
ただこの滑稽な遊戯につきあっているの
あなたがみていてくれるから。 


いつもの部屋に戻れば
私達二人に近づく人はあまりいない
自ら死にかけているとでも見えるような私とわざとそれを招いているような西君の行動は傍からみたら異常なのかもしれないけど

西君があの瞬間は私だけを見ていてくれるから 

いつ本当に死ぬのかなんて分からないけれど

それでも良いかなって


私が物思いに浸りながら、何だか妙な気だるさ感じて鈍いのに拍車をかけてのたのたと着替えていると、西君は私の存在なんて気にも留めないといった顔で横を通り過ぎては帰ろうとしているから、慌ててスカートのファスナーを上げながら後を追いかけたら西君は歩くスピードを少しゆるめた。

「腹、減ったな」

「昨日のスープの残りあるし今日はシチューにしよっか」

「ハンバーグな」

「え。聞いてた?昨日の残り「お前が一人で食えよ」

何が楽しくて一緒にいるのに別々のご飯をっていうかハンバーグだって結局私が作るのに。それなのに、どうして昨日の残りを私だけが・・だなんて言ってやりたい様々な文句を押し殺して、私なりの精一杯の反撃で

「餓鬼」

一言ぽつりと呟くと西君はギロリと睨むもんだから、素直に謝るよね。まぁ。
惚れた弱みってやつを良いように利用されている気がする。
付き合っているわけでもないのに、私達は一緒に住んでいる
っていうか年下である西君の家に一人暮らしをいいことに住ませてもらっている

まぁ私は何となーくそれなりに生きていた女子高校生だったわけなのだけれど、事故というありがちな理由で車に轢かれてガンツの部屋に送られた。ミッションで生き残ったから(初っ端から囮にされて死にかけたけど)、また何となーく明日も在るのだと思って家に帰ったら何故か他の人とは違い死んだままになっていて、棺桶の前で片親の母が泣いてた。
私は死んだことになっていた。どうしようだなんて何処か他人行儀に一人で彷徨って夜中徘徊していたらミッションで出会ったばかりの西君にたまたま?出会って、事情を話したらバグもよくあることなんだって。だから今は西君の家で引きこもっている。なんだか引きこもってガンツに呼び出されて戦って、本当にこれは二度目の命の意味もあるのかないのかなんて分からないんだけど

「・・・まあまあ」

こうやって私が作った手料理であるハンバーグを相変わらず無愛想なくせに残さず食べてくれる西君との時間が愛しいと感じたその時から意味なんて必要なかった。
 ご飯を食べて洗い物をしていると西君は私に背中を向けて自らのサイトに今日のミッションについて書き込んでいる。この背中も見慣れた光景となっていた。


「でもさ、西君もよくこんな分からない女を家にあげたよね」

不意に口から滑り落ちた一言。
いつも西君がパソコンに向かう時は、話しかけても無視されるのに西君は珍しく上半身だけこちらを向けて私をじっとみた。一瞬複雑そうに顔を歪めた後に冷ややかな視線をした西君と視線が交わると胸の奥がざわついて、小さな沈黙が生まれた。

先に沈黙を破ったのは西君で

「知らねェ、嫌なら出てけば」

そういう意味で言ったわけじゃないのに。誤解されたのかな。
困惑の表情を隠しきれずに視線を彷徨わせていると西君はくっくっくって意地の悪い笑い声が聞こえて初めて、からかわれたことに気付いた。酷いよ西君だなんて言う前に

「行くとこねーなら、居りゃいいだろ。頭の悪い質問すンなよな、これだから脳ミソ小っせーやつは」

理由なんて欲しかったわけじゃない
心から零れた よくわからない もやもやとした不安を
西君は私が その不安の訳を気付く前に拭ってくれる。

あなたには敵わない
そう思って、いつもの愛しいその背中をまた見つめた。



そんなある日
いつものようにミッションで呼ばれた

西君が来るまでステルス使って隠れてろって言われているのだけれども5歳くらいの男の子が星人にやられそうになって泣いているのをみたら頭よりも先に身体が動いていた

私の腹部を貫く星人の攻撃、突き飛ばした彼は無事だったようで

「わぁーーーん、やだーーママーママー」

あぁ、そんなに泣かないで。傷に響くから。
死んじゃうのかな。西君に会ったらなんて言い訳しよう
偽善者ぶってるからだろ、自業自得だとか、また脳ミソちっせーとか馬鹿にされるかな。嫌だなー、絶対今日の夜ご飯 絶対に大変なのリクエストされるよ。
ひき肉余ってるのに、コストのこと考えてないんだから

小さな男の子は相変わらず泣いている
星人が彼の大きな泣き声に反応して、いたぶる様に男の子にゆっくりと近づいてきているとまた少し胸が締め付けられるような錯覚に陥った。

あ。でも そっか・・・
会う前に死んじゃったら言い訳もできないのか、夜ご飯のことも・・

途端にあふれ出す涙と胸の底の恐怖。嫌だな死にたくない、リアルでは死んでることになってるけど。それでも、私まだ西君と一緒にいたいな。こんな子どものことなんて放っておいて逃げなくちゃ逃げなくちゃ早く
それなのに目の前の泣いている男の子は何故か彼の面影が重なって、フラフラでネジの外れたオモチャのような身体を動かし最後の力を振り絞ってXガンを放った。

バァアンとずいぶん的外れなところに当ったのと同時に破壊音に気付いた星人はこちらに方向転換する、そしてスピードをあげて距離が迫ってきた

「君!はやく、逃げて!」

自分でもびっくりするくらい大きな声で叫んだ刹那

あっ・・
脳裏をよぎる 
忘れさられていた思い出たち

あの少年の泣き顔はあの時の彼を思い出させて
あの日、私達は大泣きしていて

私たち ・・

ねぇ丈ちゃん 今更思い出したよ
遅いよね
本当にノロマで脳みそ小っさいよね


嗚呼。ようやく繋がった 思い出した
あのミッションが初めましてでも
私を家にあげてくれた理由は 知らねぇ でもないじゃない

いつも囮にしてるだなんて嘘じゃない
傍に居て守ってくれてたなんて、分かりにくいのよ馬鹿

あなたは ずっと 約束を



私の言葉に少年ははっとして衝動に駆られたように足をもつらせながらも、無様ながらに懸命に逃げていく。相変わらず大きな泣き声を上げて

「うわーーあん お姉ちゃんがー」


そして星人はその大きな触手で、次こそ私の息の根をとめようと大きく振りかぶる

「あぁ、もう・・・馬鹿だ。私 丈ちゃん・・・今更気付いたなんて」

堰をきったように留まらない涙。
何で気付かなかったんだろう。思い出すきっかけは沢山あったのに
西君はいつでも私を待っていてくれたのに

「やだ。約束したのに 一緒に居るって言ったのに いやぁああああああ」


無慈悲に星人の攻撃が襲い掛かる 刹那

「チッ。遅せぇンだよ 馬鹿名前」

ズキューン

聞きなれた音がしたと思うと、目前に迫っていた星人が一瞬にして黒い血を撒き散らして消え去る。返り血がシャワーみたいに降り注ぐと西君が助けてくれたのかと理解し、気が抜けてそのまま意識を手放した。



・ ・・・


日が落ちるのも早くなってきた秋空。
夕日が赤く 赤く 空を 懐かしい町を、思い出の公園を染めていた

「名前!もう泣くなって」


懐かしい声。懐かしい景色。
都心から少し離れた空き地で小さくなって涙でぐちゃぐちゃな顔の私に丈ちゃんも涙と鼻水を盛大に垂らしながら大声で叫んだ


「丈ちゃんだってぇー泣いてるよおお」

そう言われた幼い頃の西君は自らの涙と鼻水を服の袖で乱暴に拭って、涙をこらえながらポケットから取り出した自分のハンカチを小さな私に押し付けた。

「もう泣くなよ。名前が泣かないように名前を全部から僕が守るから」
「ほんとう?」

「あぁ、約束する」

単純な私は彼の言葉に先ほどの涙はどこへ行ったのか、無遠慮に涙を拭ってハンカチをぎゅっと握りしめながら無垢な笑顔で笑っていた。

「じゃあ私も丈ちゃんのお母さんになるって約束するー!」

幼いながらに頭の悪そうな発言に丈ちゃんは一瞬ぎょっとした顔をするものの、難しそうに考えた後、頬を赤く染めながら私の頭を小突いて

「僕のママはいるからなれないよ!おっ、お嫁さんだろ」


ねぇ、丈ちゃん、
今も貴方がいったこの言葉も覚えているの
ずっとずっと思っていてくれてたの だなんて私、自惚れてる?

そして あの約束を交わす。

「何でも良いからずっと一緒に居るー!」

「じゃあ約束な。ずっと一緒に居たらずっと守ってやる」 
「うんっ」

何であの時、いつもカエルとか投げてきて意地悪で、カッコつけていた丈ちゃんまであんなに泣いていたんだっけ。何で私はあの時、あの場所で小さくなって泣いていたんだっけ。きっとその理由は今の私達にとっては些細なことかもしれないけれど

あぁ。
何で忘れていたんだろう



小学校に入って男女を意識するようになってから
私は丈ちゃんを置いて大人になろうとしたの
遊ばなくなって、会わなくなった。話すこともなくなって、忘れていった。
そして8年後には、いやもっと前に 私達は他人になっていた

今に至るまで何があったかは分からないけど、容姿も雰囲気も話し方も仕草も別人のように変わった彼。意地悪なところとかは昔からだけど。
そして一度 命を落としたことで 再び私達は出会った。約束を貴方を忘れたまま。

けれど

彼はいつだって 約束守ってくれてたのね


・ ・・


いつもの黒い球のある部屋に転送された私の前には背を壁に預けて腕組みをしながら、怒っているのか気恥ずかしいのか形容し難い表情を浮かべている西君がいた。気を抜いたらまた泣いてしまいそうな私の顔を見て西君は溜息を一つこぼした。

「ごめんね。私・・・いっぱいごめんなさい」

近づく足音。
そらせない視線

ぐいっと私の身体を乱暴に引き寄せてはいつの間にか抜かれていたのだと今更気付く身長差のせいで生じた彼の胸の中に引き込まれる。その腕は優しくて温かい

「何、お前死にかけてンだよ。つーか、無能のクセに人のこと助けられると思ったワケ?偽善者ッて嫌いって言ったよな」

「うん、ごめんね」

西君の言葉は震えていて問い詰めるような言葉も虚勢となり、悲痛の胸の内が彼の体温から直接流れてくるような気さえした。子どもがオモチャを隠すように、腕の力を強めて『勝手に死ぬとかまーじ勘弁。』と独り言のように小さく呟いた彼は誰よりも寂しがりでいて、そして私をずっと愛していてくれたのだと改めて実感して胸がきゅうっとなった。


ねぇ、どんな気持ちだったの?
薄情なこんな私が大人になろうと勝手に離れていったとき
再会して貴方との約束さえ忘れていたとき
私があんな愚問をしたとき

どちらともなく身体を離すと、空気を読んでくれたガンツが他のメンバーの転送を始める。次々に転送されてきて今回も生き残ったメンバーははしゃいでいて、先ほどのことを思い出すと熱が顔に集まってくるのを感じ彼らから目を逸らした。
 採点が始まりガンツが『西君、名前ちぃ好きすぎ』『名前ちぃ、忘れすぎ泣きすぎ』とコメントされた時には、皆の視線が痛かったし西君が舌打ちをしたのは言うまでも無い。

扉が開いて岐路につこうと一緒に歩き始めたところで気付く。
今日は私が着替え終わるの待っていてくれたことに。そんなさり気ない西君の変化を思うと頬が緩むのを止められず、ふわふわした気持ちで歩いていたら隣に歩いてたはずの西君はずっと前を歩いていて・・それでもいつも以上で軽い足取りで追いかけながら

「西君。 いつも待っててくれてありがとう」


「許さねェ。」

「えっ」

ふわふわした気持ちが一気に打ち砕かれて戸惑いながらも、怒っているらしき西君にとりあえず如何謝罪しようか考えながら三歩先を歩く西君を見詰めた。すると西くんは振り返って、いつもの笑みでこう言うんだ。『許さねェから、これからもせいぜい囮として貢献しろ』だなんて
囮だなんて言って傍にいろなんて西君も相当ひねくれ屋さんだ。普通に守ってやるからとか言えばいいのに。けど私だって西君に負けず劣らずひねくれてるのかもしれない。

「そういいつつ、本当にヤバくなったら何だかんだ西君が守ってくれるんでしょ?」

西君は足を止めて自惚れてンじゃねーと言わんばかりに呆れた顔で振り向いた。その隙にちゅっと唇を奪ってやれば この時ばかりは西君は耳まで真っ赤にしてチッと大きな舌打ちをした。

―――――

「次、忘れたら その空っぽの頭打ち抜く」


「ごめんってば。今度こそ約束するよ、傍に居る」

これからも囮。それは君からの忘却ペナルティ


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