合格した先で手にするもの
side:ルーエル
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「ぅ...ん..」
「おはよう、エレフ。気分はどう?」
柔らかな風がカーテンを揺らす正午。
そっと目を開けた緑の少年に微笑みかける。
「生き、てる?」
「えぇ、生きてるわ。」
「...試験は?」
「・・・キルアの反則負け。あなたは、合格よ。」
「・・そっか。」
ゆっくりと体を起こすエレフ。
最終試験が終わった翌日の事だった。
終曲
− 合格した先で手にするもの −
「傷は完全に塞がったと思うのだけど...まだ何処か痛むところはあるかしら?」
「いや、むしろ試験前より身体が軽いくらい。俺よりルーエルが心配。無理したんじゃない?」
「大丈夫よ。エレフとの修行のお陰で魔力量も上がっていたし思ってたよりは負担かからなかったの。」
「そっか。」
エレフは安心したように笑うと、ゆっくりと私に向かって頭を下げた。
「ルーエル、命を救ってくれて、本当にありがとう。」
そんなエレフに私はそっと微笑み、
「エレフが生きててくれて、本当に良かった。」
そう言った。
顔を上げたエレフも穏やかに微笑む。
そんな彼に私は「紹介したい子がいるの。」とそっとその子が隠れているであろう棚を見た。
「出ておいで。」
エレフが不思議そうに首を傾げて棚を見る。
その棚からひょっこりと恥ずかしそうに顔を出したのは・・・
「妖精?」
パタパタと、透き通る緑の羽を動かし出て来たのは小さな妖精。
そう、
「...エレフッ!」
「――!その声、ソラ?!」
勢い良くエレフの顔に抱き着いたその精霊は、エレフの契約精霊、ソラ。
ツーサイドアップのピンク色の髪に、くりっとした緑色の瞳。
手のひらサイズというのも相まって何とも愛らしい。
「その子、エレフが刺された時すごく取り乱しちゃってね。木の枝が会場の窓を突き破って中にいる人達を襲っちゃったのよ。
私の言葉で収まってくれたけど、私がエレフを回復させてる時もずーっと近くに気配があったの。
私には彼女の声が聞けないから、お話出来るように具現化させてもらったのよ。」
ね?とソラに笑いかける。
彼女は少し恥ずかしそうに頷いた。
「エレフが死んじゃうんじゃかいかって、すっごくすっごく怖くて。でも、あたしは何も出来なくて、すごくもどかしくて...そしたら、その...ルーエル、が力を貸してくれて...」
「この子、一生懸命エレフの額の汗を拭ってたのよ。頑張れ、頑張れって声を掛けながらね。」
「―――っ!ルーエル、そこまで言わなくていいのよっ!!」
「えー?ふふ。」
顔を真っ赤にして怒るソラが可愛くてつい笑ってしまう。
そんな私達にエレフは口をポカーンと開けて呆然としていたが、目の前のソラを見て申し訳無さそうに眉を下げた。
「ソラ、心配かけてごめんな。」
エレフの言葉に、ソラの大きな瞳に涙が溜まっていく。
そしてポロポロと大粒の涙が溢れ落ちた。
「うぅーっ」
涙の止まらないソラに、エレフはその小さな頭を優しく撫でる。
そんな光景に、私はそっと微笑んだ。
ーーー・・・
ライセンス講習を聞くために私とエレフはホテル内にあるホールに向かっていた。
「―――ぁ...」
そのホールの扉の前。
私達は、同じく講習を聞きに来たクラピカとレオリオと鉢合わせた。
最終試験以来言葉を交わしていない二人。
クラピカは私の顔を見ると一瞬目を見開き、しかしすぐに私から目を逸らすと何の言葉も話すことなくホールへと入っていった。
そんなクラピカにレオリオが溜息を吐く。
「すまねぇな、フレイヤ。」
「ううん、当然のことだわ。私の方こそ、本当にごめんなさい。」
“旅団と繋がっている事を黙っていて”という意味を含ませてそう言えば、レオリオは首を横に振った。
「それは俺に言う言葉じゃねぇな。これが終わったら、ちゃんと説明してくれ。」
「えぇ、もちろんよ。」
私の言葉にレオリオは満足気に頷くと、次にエレフに目を向けた。
「もう動いて大丈夫なのか?」
「あぁ、ルーエル...っと、今はフレイヤだっけ?まぁ、いいや。
回復魔法使ってくれたからね。お陰様で試験前よりも元気だよ。」
冗談交じりにそう言うエレフにレオリオも安心したように笑う。
「そりゃ良かった。・・・俺のダチが、悪かったな。お前が生きててくれて本当に良かった。あいつが人殺しにならずに済んだこと、本当に感謝してる。」
――ありがとな。
そう言って深々と頭を下げたレオリオ。
そんなレオリオに、きゅっと胸が締め付けられた。
(この人は本当に...どこまでも真っ直ぐで仲間想いなのね。)
「助かったのは俺じゃなくてフレイヤのお陰なんだけどね。でも、うん。ありがとう。
前の試合見てたしさ、何となく...あの子は悪い子じゃないとは思ってるよ。だから気にしないで。」
そう言って笑ったエレフに安心する。
キルアを恨むんじゃないかって...まぁ、恨んで当然なんだけど。
あれだけの傷を負わされたのに、これだけあっさりと“気にしないで”と言えるエレフはすごいなと思った。
その後レオリオはもう一度エレフにお礼を言い、クラピカの後を追うようにホールへと入っていく。
それを見届けて、私達もホールへと足を踏み入れた。
「ありがとね、エレフ。」
「ん?何が?」
広いホールの中、私達は誰も座っていない後ろの方の席へと腰を下ろした。
当たり前のように隣に腰掛けたエレフに小声でお礼を言えば、彼は何の事かと首を傾げる。
「キルアのこと。・・・気にしてないって言ってくれて、安心した。」
「あぁ...。まぁ、重症だったとはいえこうして生きてるからね。あの子も急所は外してくれたっぽいし。」
「・・・本当に、ごめんなさい。」
「なんでルーエルがそんなに謝るの?」
苦笑するエレフに、私はイルミに言われた言葉を思い出していた。
――“キルはね、キミを試したんだ。自分と彼、どちらを選ぶか。”
「キルアがエレフを刺した原因が、少なからず私にもあるから....」
そう言って俯いた私にエレフは盛大に溜息を吐くと、ぽんっと私の頭に手を置いた。
「それこそ気にしなくていいことだよ。・・・って言ってもルーエルは気にするんだろうけどね。」
「・・・・・」
「だからさ、俺もそのキルアって子に会わせてよ
。」
「―――え?」
エレフの言葉に思わず顔を上げる。
「どうせこの後会いに行くんでしょ?それに俺も連れて行ってよ。
直接会ってチョップくらいはしないとね。」
悪戯にそう笑うエレフに、ぎゅうっと胸が締め付けられた。
エレフはきっと一番の解決方法を分かってる。
そしてその方法を私から言い出せない事も分かっていて今こう言ってくれているのだ。
「・・・本当に、ありがとう。」
ぽつりと溢した私の言葉にエレフはもう一度笑い、頭から手を離した。
――そうして、ライセンス講習が始まった。
・
・
・
「ちょっといいか、会長さん。」
そう、レオリオが立ちながら発言したのは講習が半分を過ぎた辺りだった。
「なにかね。」
「キルアの合否についてだ。」
その言葉に周りの空気がピリッとする。
「オレからすりゃ、どうにもアイツの不合格は納得いかなくてな。よって、再審を要求する!」
真っ直ぐにネテロさんを見てそう言うレオリオに、私はチラッとネテロさんへと視線を向けた。
ふむ...と片眉を上げるネテロさんは、その抗議を流すことなくしっかりと向き合う姿勢を見せた。
「理由を聞こう。」
「それについては私から話をしたい。」
新たに上がった声の持ち主はクラピカで。
「キルアのエレフ氏への攻撃には彼自身の意志が感じられなかった。」
「意志とな。」
顎ヒゲを弄りながらネテロさんは思案顔をつくる。
――“キルアの意志”。
その言葉に私はそっと目を伏せた。
その時、後ろにある扉が大きな音を立てて開いた。
そこにいたのは――、
「ゴン・・・?」
ハンゾーに折られた腕を吊り、ある一点を睨みつけるゴン。その視線の先にはイルミが。
それだけで分かる。ゴンがキルアの事を、それもかなり詳しく聞いたということが...。
怒りのこもった視線に気付いているだろうに、イルミは気にすることなく悠然と座っている。
「おい、ゴン!」
声をかけるレオリオに見向きもせず、ゴンは真っ直ぐにイルミの元まで歩いて行き、ぴたりと足を止めた。
「キルアにあやまれ。」
彼にしては珍しい起伏のない声が会場内に浸透していく。
静かだが、その声音には確かな怒りが含まれていた。
「――あやまる?どうして?」
そんなゴンの怒りをさらりと流し、イルミはちょこんと首を傾げる。
「そんなことも分からないの?」
「うん。」
まさに即答。
そこには考えようとする素振りすらなかった。
そんなイルミにゴンはギリッと拳を握る。
「お前に兄貴の資格なんてないよ。」
「兄弟に資格がいるのかな?」
心底不可解そうにイルミが首を傾げると、ゴンはイルミの手首を掴み勢い良く引っ張り上げた。
長身のイルミが弧を描くように宙に浮く。
ありえない方向に曲がるイルミの腕に思わずぎゅっと目を瞑った。
「友達になるのだって資格なんていらない!」
ハッと顔を上げる。
見ればゴンは真っ直ぐにイルミを見つめ、その瞳に強い意志を宿していた。
「もう、謝らなくてもいいよ。キルアのとこに行くんだ。
だから、案内してくれるだけでいい。」
くるりと方向を変えてそう言ったゴン。
イルミは相変わらず冷たい目でゴンを見下ろしていたが、その瞳が僅かに怒気を孕む。
「で、それからどうする気なの?」
「そんなの決まってんじゃん。キルアを連れ戻す!」
あたかも当然のことだと言うようにゴンが真っ直ぐとイルミを見据え、そう言った。
イルミが僅かに目を細める。
「まるでオレがキルを誘拐したみたいなことを言うね。あいつは自分の足でここを出て行ったんだよ。」
「でもキルア自身の意志で出て行ったわけじゃない。お前たちに操られてるんだから誘拐されたのと同じだ!」
その言葉に、私は自分の中に引っ掛かるものを感じた。
(それは...その考えは、少し違うのではないかしら。)
友達を想うからこその言葉。
だけどそれは、少し偏り過ぎな気がした。
(きっとイルミ...ううん、キルアの家族からしたら、ゴン達こそがキルアを自分達から連れ去ろうとしている悪者なんだわ。)
キルアを想うからこその、ぶつかり。
両者とも譲れないものがあるから、だから...
「この中に、悪者なんて一人もいないのよ。」
ポツリと呟いた言葉はエレフにのみ伝わり、彼は私の心をあやすかのようにそっと頭を撫でてくれた。
「まあ待て、ゴン。」
静まり返った空気を動かしたのは、意外にもネテロさんだった。
「先ほど丁度そのことで議論しようとしていた所じゃ。」
先程レオリオとクラピカが唱えた異議。
どうやらネテロさんはその異議を無視することなく聞いてくれるようだ。
ネテロさんの声に、ゴンが肩の力を抜いたのが分かった。
自分を見るゴンに、ネテロさんは双眸をやや細めて続きを話す。
「クラピカとレオリオからキルアの不合格について、不当ではないかと異議が唱えられてな。
その申し立の審議をしていたのじゃよ。」
キルアの合否について。
ネテロさんがハンゾーにあの時言ったように、何があってもキルアの不合格は変わらない。
それでもこうして異議を唱えさせてくれるのは、この試験において合格に納得していない者が多いからなんだろう。
ネテロさんの言葉を受け継ぎ、クラピカが再び立ち上がった。
「キルアの様子は自称ギタラクルとの対戦中、そしてその後において明らかに不自然な点が見受けられた。
対峙した際に何らかの暗示をかけられたことにより、あのような行為に至ったと考えられる。
通常、どれほどに強力な催眠術であっても殺人を強いることは不可能だ。
しかしキルアの家庭環境から、殺しというものが彼にとって日常的であったならば論理的な抑制が出来ずとも不思議ではない。」
クラピカの言葉に続くようにレオリオも立ち上がり発言する。
「問題なのはオレとエレフの対戦中に事が起きた点だ。」
レオリオの主張に、彼が何を言おうとしているのかが分かりハッと息を呑む。
「状況を見ればキルアはオレの合格を助けたともとれる。だったら失格になるのはキルアじゃなくオレだ。」
「レオリ――っ」
それは違うと立ち上がろうとして、しかしそれはエレフによって遮られた。
ガタンと音を立てた私にクラピカが一瞬だけ視線を向ける。
しかしそれはすぐに逸らされ、レオリオの発言を咎めるかのように少し強めに結論を述べた。
「――いずれにせよ。キルアはあの時、自身の意志で行動できない状況にあった。よって彼の合否は妥当とは思えない。」
クラピカの言葉にネテロはふむと考えるように頷く。
しかし、次に出た言葉は肯定的なものではなかった。
「全て憶測にしかすぎんよ。キルアが暗示をかけられた証拠は何もない。」
その言葉にクラピカが僅かに目を細める。
「また、レオリオとエレフの戦闘開始直後に事が起きた事については、ワシには問題点は見受けられなかった。」
レオリオが唱えた異議についてもネテロさんは否定した。
グッと顔を歪めるレオリオを納得させるようにネテロさんは根拠を述べる。
「両者共に総合的能力はあの時点でほぼ互角。経験値を考慮しエレフを上位に置きはしたが、接近戦という事を考えればむしろレオリオの方が有利じゃと捉えておった。
しかも今回は魔法を使う事を禁止していたからの。それも含めレオリオが勝てる見込みは十分にあった。
キルアがあえて手を出すような場面ではなかったじゃろうて。」
レオリオは反論の余地がなかったのか舌打ちした。
その後誰からも反論の声が上がらなかったので、この話はここで終わりかと皆が肩の力を抜いたその時、第三者の声がホールに響いた。
「不自然な点なら他にもあるぜ。」
その声の主はポックルで。
意外な人物の介入に私は軽く目を見開いた。
ポックルは不審な目でクラピカを見据えながら続きを述べる。
「ヒソカと戦ってた時のあんたの様子だ。
お互いにまだ余裕のある状態で、あんたに何かを告げたヒソカの方が負けを宣言した。おかしいだろ。」
何事かを囁かれた方が負けを認めるのであれば、何らかの圧力をかけられたのだろうと納得がいく。
だがクラピカはそうではなかった。
その事がポックルにとっては納得出来ない、とのこと。
だけど、何故ポックルがそこに疑問を持ち、あえてここで発言をしたのかが私には分からなかった。
彼は自分の発言の先に何を求めているのか。どんな答えと結果を望んでいるのか...。
しかしその答えは次の彼の発言で明確となった。
「オレには何らかの密約がかわされたとしか考えられない。
不自然を理由に合否の判決に異論を下すのであればあんたの合格も不自然だ。
うしろめたいことがないのなら、あの時なんと言われたか説明してもらおう。」
―――八つ当たり。
彼の声音と発言から、そう感じた。
おそらく彼は自分の合格も同じように不自然であると分かっている。
抗う事すら出来ず、あまりにも理不尽な形で終わってしまった彼の試合。
(どう、発散していいか分からないのね...。)
変えようのない現実。
だけどそれを受け入れる事が出来ないくらい彼は傷付き、悔しい思いをした。
そしてその元凶は、今不合格について名前の上がっている、キルアなわけで――。
(きっとポックルは、クラピカに対して全く関係ない的外れな事を聞いているっていう自覚はある...。)
「答える義務はない。」
「責任はあるだろ。」
それでも言葉が止まらないのは、もう自分でもどうしようもないからなのだろう。
そして――、
引き下がらないポックルに、クラピカはその声音に苛立ちを含ませ彼が一番傷付くであろう言葉を述べた。
「ないな。私の合格が不自然であるのなら不戦勝での合格も決して自然とは言いがたい。」
―――ガタンっ
クラピカが言い終わると同時、私はわざと大きな音を立てて立ち上がった。
全員の視線が一斉に私へと集まる。
「クラピカ。今の言葉は彼が傷付くと分かっての発言ね?」
真っ直ぐにクラピカを見つめ、そう問い掛ける。
クラピカが後ろめたそうに視線を逸らしたのを見て、私は小さく溜息を吐いた。
「本心ではないわね。あなただけが悪いわけじゃない。だけど今の発言は無視出来ないわ。」
そう言うと、クラピカはしばらく私を見つめた後、ゆっくりと息を吐きポックルに向き直った。
「すまない。軽率な発言だった。」
そんなクラピカの言葉を受けて、ポックルがグッと口を噤む。
自分が事を荒げた原因であると分かっているであろうポックルは、しかし素直に謝罪の言葉を口に出来ない。
そんな彼にも私は厳しい目を向けた。
「ポックル、あなたがやっているのはただの八つ当たりよ。
気持ちのやり場がないのだとしても、今ここで出すべきではなかった。違う?」
グッと唇を噛み締めるポックルに、私は尚も言葉を続ける。
「あなたの中にどうしようもない怒りと悔しさが渦巻いているのなら、それを強くなるための燃料にすればいい。
もうこんな思いをしなくて済むように誰よりも強く、そして、自分の思い描く素晴らしいハンターになればいいのよ。
どんな形であれ、あなたはその資格を手に入れた。その資格を持ってどう生きるかはこれからのあなた次第よ。」
私の言葉に彼が何かを返すことは無かったけれど、それ以降彼はじっと自分の手元を見つめたまま何かを考えているようだった。
そんな後ろ姿を見つめながら、私はゆっくりと腰を下ろす。
再びホール内に静寂が訪れたその時、
「フレイヤの言う通り、自分の合格が不満だって言うなら満足できるまで精進すればいいだけだ。人の合格をとやかく言うことなんてない。」
静かで強かな声がその場に響いた。
「キルアだったら、もう一度受験すれば絶対に合格できる。
今回落ちたことは確かに残念だけど仕方ない。それより――、」
ゴンの声が少し揺れ、そのトーンが先程よりも低いものになる。
「もしも――、もしも今までキルアが望みもしないのに人殺しを無理やりさせてたんだったら……」
ゆっくりとイルミを見据えるゴン。
その瞳は怒りの炎を宿し、今にもイルミを焼き尽くそうとするかのように燃えていた。
「お前を、許さない。」
ギリッと手に力を込めたゴン。
その手に掴まれているイルミの腕が小さく悲鳴を上げる。
そんな自身の腕を無表情に見下ろしながら、彼は平坦な声音でゴンに問うた。
「許さない、か……。それで、どうする?」
「どうもしないさ。お前達からキルアを連れ戻してもう会わせないようにするだけだ。」
そんなゴンの言葉に、イルミのオーラが僅かに揺らいだ。
ゆっくりとゴンに手を伸ばすイルミに不穏な空気を感じ取った私はガタンっと立ち上がる。
それと同時、ゴンが掴んでいた手を離しイルミと距離を取った。
その姿にホッと息を吐く。
(さすがゴン。何かは分からなくても危ないものだって感じ取ったのね。それにしても...)
今はもう手を下ろしているイルミに視線を向ける。
(イルミ...今、ゴンを殺そうとしたの?)
私の視線に気付いていて振り向こうとしない彼にぎゅっと拳を握る。
そんな私の手にそっと触れたエレフは私と視線を合わせるとゆっくりと首を横に振った。
―――今、動くべきじゃない。
そう語る瞳に、その意味を理解した私はそっと目を伏せゆっくりと腰を下ろした。
(確かに今私が動けば、話はもっとややこしくなる。何故私がイルミを知っているのか、知っていて何故キルアに教えなかったのか...
私は、どっちの見方なのか――。)
そんなことは、関係ない人もいるこの場所で話す事ではない。
「――さて、諸君。よろしいかな?」
頃合いとみたネテロさんが、ゆっくりと会場を一望する。
「ゴンの言ったように自分の本当の合格は自身で見つければ良い。
そして他の者の合否についても我々が決定を覆すことはまずない。
キルアの不合格もおぬし達の合格も変わりはせんよ。」
それだけ言うとネテロさんは隣りにいるマーメンさん(この前名前を聞いた)を見た。
こっくりと頷くマーメンさんのその独特の顔に、やはり彼が魔族ではないという事実が未だに信じられない私である。
「じゃあ説明会の方再開しますね。折角ですし初めから説明しましょう。」
ニコリと彼は笑顔を浮かべて手に持つカードを指し示した。
「皆さんにそれぞれお渡ししたこのカードがハンター免許証。まあライセンスですね....」
マーメンさんの話をぼんやりと聞きながら、私はチラッとクラピカ達を盗み見た。
この講習が終わったら、私は彼らに話すべきことを全て話す。
――どこから話していけばいいのか...
震えそうになる手をぎゅっと握り、私はゆっくりと息を吐いた。
・
・
・
・
「――さて、以上で説明は終わります。」
その言葉にハッと顔を上げる。
横にある時計を見て私は額に手を当てた。
(どれだけ思索に耽ってたのよ...。)
「あとはあなた方次第で試練を乗り越え、自身の力を信じ夢へと向かって前進してください。」
マーメンさんの最後の言葉だけはしっかりと聞き、スッと背筋を正す。
「ここに居る九名を新しくハンターとして認定いたします!」
その言葉に、胸が高鳴った。
やっと彼等の隣を歩く事が出来るのだと――。
嬉しさで緩みそうになる頬を、きゅっと手を握り締めることで堪える。
目を閉じてゆっくりと息を吸い、ゆっくりと吐く。
興奮した心が落ち着いていくのを感じながら、私はこれから声を掛ける三人の顔を思い浮かべた。
そっと目を開ける。
その瞳に覚悟と誠意を宿して。
私は、席を立った。
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