それぞれの戦い
「第三試合。
クラピカvsヒソカ!」
――始め!
それぞれの戦い
クラピカとヒソカの試合は先程よりも緩やかな攻防の繰り返しで、どちらが決定打を食らうこともなく続いていた。
何度かの攻防の末、それに終止符を打ったのはヒソカだった。
彼は手に持つトランプを宙へと投げ、そしてチラッと私へと視線を向けニヤリと笑う。
その意図に気付けなかった私は首を傾げて成り行きを見守ったが、次の瞬間、ヒソカのとった行動に――いや、正確にはクラピカの視線に、目を見開いた。
ヒソカはトランプを捨てると緩やかにクラピカへと近付いて行き、そっと耳元へと顔を寄せる。
おそらく一言くらいの短さだったと思う。
一瞬にしてクラピカの瞳は緋色に染まり、そしてその瞳は私を捉えた。
その瞬間に、悟る。
(クラピカに、自分が蜘蛛である事を話したのね。)
緋色に染まった瞳を、私は覚悟と共に真正面から受け止めた。
そんな私にショックを受けたかのように、クラピカの瞳が小さく揺らぐ。
そして、クラピカは歯を食いしばり私から視線を逸らした。
隣でレオリオがそんな私達を心配そうに見ているのに気付き、私は小さく苦笑する。
「ちゃんと、話すわ。」
それだけをレオリオに告げ、私は再び視線を前へと戻す。
ヒソカが“まいった”と宣言した事で、第三試合はクラピカの勝利で幕を閉じた。
第四試合、ハンゾーvsポックル。
この勝負はあっさりと決まった。
ハンゾーが試合開始と共にポックルへと手刀を落とし、ゴンの時と同じ体制に持っていく。
ハンゾーの要求に対しポックルは最初こそ反抗していたものの、
「悪いがあんたにゃ遠慮しねえぜ。」
ハンゾーのこの一言でポックルは折れたのだった。
悔しそうにその場を去るポックル。
しかし、彼を更に苦しめたのは次の試合だった。
「第五試合、ポックルvsキルア。始め!」
ポックルがキルアを睨み構えを取った瞬間、
「まいった。」
そう、キルアは軽々しく口にしたのだ。
会場の空気が一瞬止まる。
ポックル自身も何を言われたか理解出来ずにいるのか、怪訝な顔をしたまま固まっている。
「聞こえなかった?まいった。俺の負け。合格おめでとう。」
再度キルアが発した言葉に、ポックルは今度こそ言葉の意味を理解した。
「――なっ、にを!戦ってすらいないんだぞ?!」
「うーん、だってアンタ弱そうだし。戦っても面白くなさそうなんだよね。だから、俺の負けでいいよ。次勝つし。」
「――――っ!」
これでもかというほどに目を見開いたポックルは、その場から動く事も出来ずに絶句している。
その間にもキルアはポックルの前から去り、試合から離脱する。
ポックルは俯きぐっと拳を握り込むと、何も言わずゆっくりとその場から去った。
そのまま壁に凭れかかり唇を噛み締めている彼に、小さく胸が痛む。
(・・・私が彼のもとに行っても嫌味にしかならないわよね。)
キルアを咎めるにしてもイルミの手前、私が口出ししてもいいのか分からないし...。
(まぁ、あのイルミがそんなことでキルアを咎めるとも思えないけど。)
何となく、でしゃばるべきではないな、と思って私はその場に留まった。
「エレフ。」
「ん?あぁ、ルーエル。なんだ?」
「次でしょ、試合。」
「そ。ヒソカとね。」
「無茶、しないでよ。」
「ははっ、ルーエルに言われちゃお終いだね。」
「酷い。心配してるのに。」
むぅ、と膨れた私に彼はポンポンと優しく頭を撫でると、ありがとな。と前へと進みでた。
「第六試合、ヒソカvsエレフ。始め!」
結果はヒソカの圧勝。
この会場で弓を有効的に使うことは出来ず、すぐに接近戦になったわけだが。
以前言っていたようにエレフは接近戦に弱いらしく、ヒソカからの一方的な攻撃を受け続け呆気無く倒れた。
そんなエレフの戦いを見ていて気付いた違和感。
それはヒソカも気付いていたらしく、倒れたエレフへと近付くとその疑問を投げ掛けた。
「キミも魔族だろう?どうして魔術を使わなかったんだい★?」
そう。この戦いにおいてエレフは魔術の一切を使用していなかった。
魔術を使えば苦手な接近戦でもある程度の回避は可能だったはずなのに、だ。
いくらネテロさんから魔法を禁止されていたとはいえ、バレない程度に使う事は出来たはずだ。
そんなヒソカの疑問に、エレフはゆっくりと痛む身体を起こしてヒソカを見上げた。
「ルーエル・・・フレイヤが、魔術を使わなかったからな。
はぁ、素手で一発ぐらい入れられりゃあ良かったんだけど。情けねぇや。」
そう言って苦笑するエレフにヒソカは珍しくその表情を真剣なものにした。
「キミはボクと彼女の間にあった事を知ってるんだね。」
「あぁ、本人から聞いたからな。」
「それでボクに一発入れようって?」
「いいや、そんなカッコいいもんじゃないよ。ただ彼等と俺の実力差がどれ程のものか知りたかっただけ。」
「・・・・なるほどね。キミも彼等を追ってるんだ◆」
「ちょっと昔にね。はぁー、やっぱダメだなぁ。“まいった”。俺の負けだ。」
そう言ってパタリと床に倒れたエレフ。
ヒソカは何処か面白そうにエレフを一瞥した後、合格を手にその場から離れた。
その際にヒソカが私の方を向き人差し指を立てたので咄嗟に“凝”をすると、
“キミも罪な女だね★”
と念文字で書かれていた。
意味が分からなかったので首を傾げると、ヒソカはそれ以上なにも言わずククッと笑って行ってしまった。
・・・よく分からない人だ。
ふっと一つ息を吐くと、未だに床に倒れているエレフへと近付き手を差し伸べる。
「お疲れ様。コテンパンだったわね。」
「はは、まぁな。」
エレフは苦笑しながらも私の手を取り、辛そうに身体を起こした。
「立てる?」
「あぁ、大丈夫だ。あー、でも肩だけ借りたい。」
「正直でよろしい。はい。」
私の肩に腕を回し、ゆっくりと歩くエレフ。
見た目以上に相当ダメージを食らったらしい。
「回復してあげようか?次に響くでしょ。」
「あー・・でも、いいのかな。フェアじゃないっつーか。」
「次はレオリオでしょ。彼ならこんなボロボロのエレフと戦うことの方が嫌がるわ。」
私が当たり前のようにそう言うと、エレフは目をぱちくりさせ、そして次には可笑しそうに笑った。
「はは――っい!?・・・ったい。あー、笑うと殴られたとこ痛むな。...はぁ、でもそいつ相当真面目でイイ奴だな。」
「えぇ、自慢の仲間よ。」
「そっか。また俺にも紹介してよ。」
「もちろん。」
そっとエレフを壁に凭れさせ、癒やし効果のある風で彼を包む。
その様子を見ていたレオリオは審判のところへ行き、エレフの怪我の具合が酷いから先に別の組の試合をしてくれないか、と頼んでくれ、エレフとレオリオの試合は一つ後に回された。
「ありがとう、レオリオ。」
「いや、その怪我じゃまともに動けねぇだろ。そんなんで合格しても嬉しくねぇしな。」
「迷惑を掛けて申し訳ない。これも俺の実力不足と受け止め勝負するのが筋なんだろうが・・・」
「気にすんな。一試合分、ゆっくり身体を休めるこったな。」
ニカッと笑ったレオリオにエレフが安心したように笑う。
ふっと身体の力を抜いたエレフはゆっくりと目を閉じ回復の体制に入った。
そして、第七試合。
キルアvsギタラクル。
(兄弟対決かぁー。ま、十中八九イルミが勝つでしょうね。)
エレフを回復させながら呑気にそんなことを考える。
しかし、この数分後。
私は自分の考えがいかに浅はかだったかを思い知ることになる。
「始め!」
審判の掛け声と共にキルアが戦闘の体制を取った。
瞬間――、
「キル。」
会場に響いた、氷柱が砕けるような綺麗な高音。
その音が空気を震わせると同時、キルアはびくりと小さな身体を強張らせた。
顔面針だらけのイルミは、ゆっくりとキルアへと近づいて行く。
それに合わせ、キルアは一歩、また一歩と後退する。
その顔には困惑が浮かんでいて、おそらく、ギタラクルがイルミだという事に結び付かないのに、その自分を呼ぶ声に条件反射で身体が反応したのだろう。
そんなキルアにイルミはふっと息を吐くと、顔に刺さった針を抜き始めた。
私の視界にサラリと綺麗な黒髪が流れる。
その瞬間、キルアの様子が見るからに怯えたものへと変わった。
「――久しぶりだね、キル。」
「あ、にき・・・っ!」
第七試合が、始まる――。
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