狩る者と狩られる者

side:ルーエル
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「おーい、起きろー。」
「う..ん...」
「ルーエル、ほら起きて。四次試験の説明始まるよ。」
「ーーーっ!」

トントン、と叩かれた背中に私はガバリと勢い良く起き上がった。
目の前には深緑の瞳。

「エレ、フ...?」

私と目があったエレフは爽やかに笑うと、これまた実に爽やかに朝の挨拶を口にした。

「おはよう、ルーエル。」


嵐は、すっかりと去っていた。








5








「まず、タワーとあの海域からの脱出おめでとう。
まさか25人も残るなんてね。ホテルである軍艦を使っての脱出、実に見事だった。」

鶏みたいな髪型をした蛇みたいな顔の試験官、リッポーさんはニヤニヤと厭らしく笑いながらそう告げた。
その顔と言葉に、この人嫌いだ、と感じた私はスッと表情を消し彼の話を聞く。

「君達に残された試験は四次試験と最終試験のみ。
そして次の四次試験はあそこに見えるゼビル島で行われる。」

遙か先に見える孤島を指差しリッポーはパチンと指を鳴らした。
それを合図に綺麗な女性が台を転がし四角い箱を持ってくる。

「これからクジを引いてもらう。
このクジで決まるのは――、

『狩る者と、狩られる者』」

ニヤリと笑ったリッポーに私は嫌悪を隠すことなく顔を歪めた。

「趣味悪い人。」
「まぁ、ハンター試験らしいっちゃらしいけどな。」

特に気にした様子もなくそう言うエレフにムッとする。

「でも、さっきまで協力関係にあったのよ?
力を合わせて脱出して、やったね、って握手を交わし合ってたのに...」

スッと周りを見れば、既に受験生を包む空気は先程とは一変、殺伐としたものに変わっていた。

「まぁ、な。」

そんな受験生達の様子にエレフも小さく息を吐く。
しかし次の瞬間には笑顔で、

「でもまっ、そんなんで敵意むき出しにして相手陥れようとする奴は小者だ。すぐ落ちるから気にすること無いって。」

あっけらかんと放たれた言葉にさすがの私も苦笑する。
しかし彼の意見に少し気分が晴れたのも事実で。
私は、そうね、と笑顔で頷いたのだった。

「この中には25枚のナンバーカード。つまり今残っている君達の受験ナンバーが入っている。
タワーを脱出した順番で引いてもらおう。」

リッポーがそう言うと、箱の横にいる女性が順番が書かれているであろう紙を見ながら受験番号を読み上げていく。

ヒソカ、イルミと続いて3番目に私が引いた。

(198番?誰よ...これ。)

全く記憶にない番号に溜め息を吐く。

(まぁでも・・・)

そっとクラピカ達を盗み見て、思う。

(あの4人の中の誰かじゃなくて良かった。)

その後も次々と受験生が引いていく。
その時に番号を盗み見ようとしたが、ほぼ全員プレートを外していたので叶わなかった。

エレフは中盤に、まだ引いていないゴン達はどうやら最後のようだ。
トンパが引き終わったと同時、箱のお姉さんはどこかへ去って行った。

「全員引き終わったね。今、君達が引いたカードが何番だったかと言うのはこの機械に記憶されている。
そのカードは各自で自由にしてもらって結構。それぞれのカードに記されたナンバーの受験生がターゲットとなる。」

私は手に持ったカードを一瞬で凍らせ手の中で砕いた。
横にいたエレフが「シュレッダーいらず...」と呟いていたがスルーさせてもらう。

「自分のターゲットとなる受験生のナンバープレートは三点、自分自身のプレートも三点、そうじゃないものは一点となり合格に必要な点数は六点。
ゼビル島に滞在している間にナンバープレートを六点分集めること。
試験終了は一週間後。その時に集合場所に六点分のプレートを持ってこれたら合格となる。」

なるほど。
初めに六点分集めたとしても試験終了まで守りぬかなきゃならないってことか。

(必ずゼビル島には一週間滞在する事になるのね。丁度いいわ。)

私はその説明を聞き、エレフに小声である頼みごとをした。
彼は一瞬驚いた顔をしたが、いいよ、と快く頷いてくれる。
私はその返事にホッと胸を撫で下ろした。

「良かった、ありがとう。じゃあ、お互いプレートを集めたら連絡を取り合いましょう。」
「分かった。」

その後、到着予定は二時間後ということで私とエレフは各自準備の為に一旦行動を別にした。






 * *






すっかり定位置になった露天甲板の上。
私は穏やかな風を感じながら床に腰を下ろしていた。
ポケットの中から携帯を取り出し画面を開く。

(あれ?仕事用のアドレスにメールが来てる。)

ハンター試験中は仕事が出来ない為、サイトには休業中と書いておいたはずだ。
まぁ、急ぎの依頼で無ければ受けられる事は受けられるのでとりあえず確認してみる。
そして依頼主の名前を見た瞬間、私は呼吸を止めた。




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フレイヤ様

初めて依頼をさせて頂きます。
我々は《Roman-ロマン-》と呼ばれる11個の宝を探しています。
調べた所によるとその《Roman-ロマン-》は一つ一つの謎を解いていく事で各宝に辿り着けるようになっているそうです。

さて。
今から2週間後に《Roman-ロマン-》の1つである“朝と夜の物語”という双子の人形が、ある富豪の屋敷にてお披露目されます。
そのパーティにて我々は“朝と夜の物語”を盗み出します。

そこに、あなたも加わって頂きたいのです。
失礼は承知で言わせて頂きますが、このパーティではあなたの実力を見させて頂きます。
一緒に行動するに値しない実力であればこの計画からは外れて頂きます。

今はハンター試験中だと思うので、返信は落ち着いた時で構いません。
良い返事をお待ちしております。


幻影旅団

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――幻影、旅団・・・っ。



喉元まで込み上げた熱いものをグッと堪える。
目を閉じ、私はゆっくりと息を吐いた。

そして強い眼差しで前を向けば、ニッと空に向かって笑う。


「私の実力を試そうだなんて。・・・望むところよ。」


今まで何処か、彼等を遠くに感じていた。
近くにいる時も、そうだった。

だけど今、どうしてかな。

離れていても近くに感じる。
同じ場所に、立てている気がするの。




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幻影旅団様


初めまして。
その依頼、お受け致します。

詳しい日時は試験が終わり次第、こちらから連絡をさせて頂きます。


フレイヤ

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「よし―、っと。頑張らなきゃ。」

携帯のメール画面を閉じ、晴れ晴れとした気持ちでもう一度空を見上げる。

―と、その時、私の視界がふと翳った。
驚いて目を見開けば、上から覗き込むようにしてクラピカが立っていた。

「気合が入っているな。ナンバープレートの持ち主が分かったのか?」
「びっくりした。いつからそこに?」
「ついさっきだ。気付かなかったという事は、また考え事をしていたな?」

ふっと笑うクラピカに内心ホッとする。

(よかった。メールの内容は見られてないみたいね。)

「えぇ、次の試験の事を考えていたのよ。
・・・頭の怪我、大丈夫?」

痛々しく頭に巻かれている包帯を指して言えば、クラピカは、あぁ...と苦笑した。

「大した怪我ではないよ。船が傾いた時に頭を何処かにぶつけたらしい。
情けない事にそのまま気を失って、気が付いたら全てが終わっていた。」

そう言ったクラピカは、ふと私の顔を見て柔らかく微笑むと隣に腰掛けた。

「フレイヤも無事で良かった。ゴンとレオリオを、助けてくれてありがとう。」

クラピカのその言葉に嬉しくなって私も微笑む。

「ううん。クラピカこそ、信じて決行してくれてありがとう。
全員が今こうして笑っていられるのは、クラピカのお蔭だわ。」

「それは少し大袈裟だ。生き残れたのは、全員の力があったからだよ。」

「・・・えぇ、そうね。」


途切れる会話。

でも不思議と居心地の悪さはそこにはなくて。
優しい風が私達の間を吹き抜けた。

「フレイヤ、もし良ければだが――」

「あれ、先客?」

クラピカが何か言いかけた所で、新たな客がこの場に訪れる。
最近よく耳にするその声に私は振り返った。

「エレフ。どうしたの?」
「いや、お前に話があったんだけど・・・先客いたなら後でいいよ。」
「そう、悪いわね。私がエレフの所に行くわ。どこにいる?」
「あー、じゃあ部屋で待ってる。」
「貴方の部屋なんて知らないわよ、私。」
「そこは、ほら、風にでも聞いてくれ。」
「・・・はぁ、分かったわ。」
「ん、頼んだ。」

そう言ってエレフは梯子を使うことなくその場から飛び降りていった。
その様子を見送り、ごめんね、とクラピカに向き直る。

「話の腰を折ってしまったわ。」
「いや、構わない。・・・随分親しそうだったが、知り合いか?」
「えぇ、あの海域にいる時に知り合ったの。」
「先程の話を聞く限り、フレイヤが魔族である事を知っていたようだが・・・」
「知ってるわ。というか、彼も魔族だもの。」

私の言葉にクラピカは大きく目を見開いた。
その様子にふふっと笑う。

「びっくりでしょう?私も最初とっても驚いたもの。」
「魔族というのは意外にいるものなのだな。」
「ね、本当に。でもこの試験で会えて良かったわ。
次の試験は一週間あるし、ささっと終わらせてエレフに修行を付けてもらおうと思っているの。」

笑顔でそう言えば、クラピカの表情が一瞬固まる。
しかしそれは一瞬の事で、すぐにクラピカは「それは良かったな。」と微笑んだ。

「同族なら教わることも多いだろう。しっかりと倒れない魔法の使い方を学ぶのだな。」

悪戯にそう言ったクラピカに頬を膨らませる。

「もう無茶な使い方はしないわよ。」
「あぁ、そうしてくれ。」

可笑しそうに笑うクラピカに私もつられて笑う。
笑いが途切れると同時に訪れた静けさに、私は不思議に思いクラピカを見た。
クラピカは何処か淋しそうな笑顔で私を見ていて・・・。

「・・・どうしたの?」

そう聞けば、クラピカは静かに首を横に振った。

「いや、少し寂しく思っただけだ。私達以外の仲間が出来た事でフレイヤが私達から離れていくのではないか、とな。」

その言葉に、ドキッとした。
当たらずと雖も遠からず、とはこの事か。
正に、私はゴン達と少しだけ距離を置こうと考えていた。

「離れる、っていうのは・・・また表現が難しいわね。
そうね、私も私でやりたい事があるからその為に単独行動を取ることは沢山あるわ。
でも、別々に行動をしていても私にとってクラピカ達は大切な仲間よ。
それは、絶対に変わることはないって言い切れるわ。」

この言葉に嘘はない。

例え敵になったとしても、私にとってクラピカ達は大切な仲間。
旅団を止めることは出来なくても、私は貴方達に刃を向けないと誓いましょう。

「そう、か。そうだな。」

曖昧に微笑んだクラピカ。
私の答えが彼の望むものでは無かったことは分かっている。
それでも、私はそれに気付かないふりをして笑った。




ーー・・・




コンコン。


「・・・はい。」
「私よ。」
「オレオレ詐欺お断りでーす。」
「・・・ルーエルよっ」


クラピカと別れ私は風の精霊に、ではなく“円”でエレフの部屋を探し出すと、そこへ向かった。
礼儀正しくノックをしたというのにあの返事。
思わず目の前の扉を吹き飛ばしそうになった。

「で、話って?」

部屋へと入り念の為、鍵をかける。
おそらくシャルに関する話だろうから、扉に盗聴防止の魔術も掛けておいた。

「もう携帯の電波入ってるだろ?シャルナークの番号教えようと思って。」

やっぱり。
私はひとつ頷くと、彼の向かい側にあるベッドに腰掛けた。

「その事なんだけどね、向こうから連絡が来たのよ。」
「え、そうなの?」
「といっても、フレイヤへの仕事依頼、なんだけど。」
「あぁー、なるほどね。でもルーエルだって分かっての依頼だろ、それ。」
「おそらく。・・・ヒソカが、連絡したんだと思う。」
「ヒソカ?」

首を傾げるエレフに私はヒソカが旅団である事、そして私を襲った張本人である事を告げた。

「・・・よく、今平常心でいられるな。」
「そりゃ最初見た時は殺気立ったわ。
でも、今の私ならいつでもヒソカを殺せるから。
わざわざ手を下す必要はないって思っちゃったの。」

そう言って笑えば、「おー怖っ!」とわざとらしく両腕を擦るエレフ。
そんなエレフに私は表情を緩めた。

「そこまで・・・恨んでもいないのかもしれないわ。
旅団の皆と離れる事で得たものはとても多かったから。」

それでも、私を使って皆を騙して苦しめたのは許せない。
だから、いつか13発分のパンチを入れてやろうって思ってるんだけどね。

ふふっと笑えばエレフが若干引いていた。

「はぁーあ!そっか、じゃあ大丈夫だな。」

思いっきり息を吐いたエレフは勢い良く後ろへと倒れベッドに沈み込む。
ぼんやりと天井を見上げ、彼はポツリと言葉を零した。

「6年前よりは、強くなったと思うんだ。だけど、彼等はきっともっと上にいるんだろうな。」

エレフのその言葉に私も目を伏せる。

「そうね。だけど、私達にしか出来ない事も多いはずよ。」
「・・・だな。まぁ、まずは試験合格だ!次も頑張ろうな。」

ベッドから体を起こしたエレフと握手を交わす。

「えぇ、合格しましょう。あと、修行の話だけど・・・」
「あぁ、プレート集めた後だったらいつでもいいよ。」
「携帯で連絡を取り合えたら嬉しいんだけど。」
「あ、そっか。知らないんだよな。」

そう言って携帯を取り出したエレフは私にアドレスと番号を教えてくれる。
しっかりと登録して私のもエレフに教えておいた。

「よし、んじゃ終わったら連絡くれ。」
「分かったわ。ちなみにエレフって何番引いたの?」
「191番。」
「あら、近いわね。私は198番。心当たりない?」
「あるわけ無いだろ。ちなみにダメ元で聞くけど191番誰か分かる?」
「分からないわね。」
「だよなぁー。はぁ、情報収集からかぁ。こりゃ適当に3人狩った方が速く集まるかもな。」
「まぁね。でも敵は増やしたくないし、二日間は頑張ってみるつもりよ。」
「ちなみにルーエルが191番の情報掴んだ時は流してくれるよな。」
「ぇ、なんでよ。」
「修行の講師代、な?」
「・・・・分かったわ。」

エルフとの交渉も成立したところで、私はエレフの部屋を後にした。
そして自分の部屋へと戻りシャワーを浴びたり紅茶(厨房から拝借した)を飲んだりと、到着までの時間をゆっくりと過ごしたのだった。




・・・ーー




到着のアナウンスが流れ、受験生達が甲板へと集まってくる。
どうやらクジ引き同様、三次試験の通過時間が早い者から下船していくらしい。

(3番目、か。都合がいいわね。“絶”をしてアイツが来るのを待とうかな。)

あぁ、でも・・・

とそこで私は目を細めた。

(彼、一番最後だったわね・・・)

先は長そうだ、と思わず溜息を吐く。

〈ゼビル島での滞在期限は丁度一週間となります!
一週間内で六点分のプレートを集めて再度ここへ戻ってきてくださいね!では一番の方からどうぞ!〉

ナビゲーターの女性の合図でヒソカから船を降りていく。
二分後にイルミ、そして私、と船を降りた。

船を降りる瞬間に“円”を張りヒソカとイルミが入り口付近に居ない事を確かめ、私は森に入った瞬間その場から姿を消した。もちろん“絶”して。

入り口から数十メートル離れた木の上に身を潜め、目的の人物が来るのを待つ。





―四次試験スタート。







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