自覚した恋心と未熟さ

side:ルーエル
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「だーれだッ!」

後ろから抱き着くように目隠しすれば、

「えー?誰だろー?」

と、わざとらしい声が返ってくる。
目隠ししている手を掴まれたかと思うと、一瞬にして形勢逆転。
私は後ろから抱き締められていた。

「なーんてね、ルーエル。」

嬉しそうな声と共に、回された腕にぎゅっと力が込められた。
その温もりに包まれながら、私は幸せに頬を緩める。


「へへ..シャルにはバレちゃうかぁー。」

「いや、みんな分かると思うけど?」

「クロロは“絶”で近付いたら、声を掛ける前に攻撃してきたよ?」

「あぁー…。(今日の仕事の考え事してたんだね、団長。)
ルーエル、“絶”上手くなったもんね。」

「うん!修行のおかげだ♪」


ぴょんっとシャルの腕から抜け、私は組手の構えをとった。

「おっ、やるか?」

シャルもニヤッと笑い、構える。

「お願いしますっ!」

これを合図に、私達は物凄いスピードで攻防を繰り返した。



―――私の目が見えるようになって、もうすぐ2年になる。















綺麗な自然の中で学ぶことはたくさんの有り、私は目が見える様になった事でより具体的に知識を増やしていった。

みんなに色んな街にも連れていってもらった。
可愛い洋服に、美味しい食べ物、お店で買い物をするって事や、それにはお金が必要な事。

目を通して見る世界は、とてもキラキラしていて、とても楽しかった。



みんなと出会って、ちょうど1年が経った頃。

びっくりするくらい大きなクラッカーの音と、みんなの「おめでとう」の言葉。


ポカーンとする私に、シャルは

――「今日はルーエルの誕生日であり、俺達の仲間になった記念日だよ」

と教えてくれた。
雪の舞う肌寒い冬だった。


優しい笑みで私の頭を撫でるシャルに胸がトクン、と大きく波打ったのも、この日。


その日から、私はシャルと顔を合わせる度に体が熱くなり、鼓動が早くなった。
なんとなく、シャルと距離を置くようにもなった。


――病気かな?

パクに相談したら、パクは優しく笑って、


――「ルーエル、それは、恋、ね」


と教えてくれた。





 恋 





不思議な響きを持つ言葉だな、と思った。






それからしばらくして。

シャルへの気持ちは“好き”って言葉で表すんだって知った。
周りのみんなとは違う“特別な好き”。

その気持ちを受け入れたら、不思議とシャルへの気まずさは無くなった。
むしろ、“もっと傍にいたい”“一緒にいたい”って想いが強くなって…。

次第に私は以前にも増してシャルの引っ付き虫になった。




それと同時に、私の生活にも変化が訪れた。

目が見える事に慣れた私の好奇心は凄まじく、森に遊びに行けば動物と駆け回り、水に入っては魚を素手で捕まえる日々。

勿論、常に誰かと一緒にはいたが――。


その中でも特に一緒にいたのが、同い年くらいのシャル、マチ、フェイタンだった。

この3人と遊ぶとなると、まぁ、最初は大変だった。
フェイタンはひょいひょいっと木々を駆け抜けるし、マチだって崖をあっという間に登ってしまう。
シャルは傍にいて合わせてくれていたけど、きっと二人と同じことが出来る。

私は三人に必死について行った。
最初こそ血を吐きそうだったが、次第に三人のペースにも慣れ、1ヶ月もするとみんなで鬼ごっこが出来るくらいにまで成長した。

同時に、遊び程度の組手もするようになり、私は自分の身を守る程度には戦えるようになった。


――あくまで“一般の人相手に”、だが…。




そして、事件は起こった。


いつもの様に組手をしていた私達。

あの時、私はフェイタンに相手をしてもらっていた。
フェイタンはすごく強くて、いつもニヤニヤ笑いながら私の攻撃をかわす。
ある程度戦えるようになってた私は、それがすごく悔しくて、本気で相手をして欲しくて。

つい、カッとなって言ってしまったのだ。








――“本気でやってよ!!”









自分の持つ言霊の力をすっかり忘れて。








* *



「…………」


ガチャ――…


「――っ!団長、ルーエルは!?」

「大丈夫だ、今は眠っている」

「怪我の具合はどうなんだい!?」

「俺の念で傷は塞いだが、体に受けているダメージまでは取れないからな。
ルーエルの回復力に任せるしかないだろう」

「…………」

「フェイタンは?」

「森から、まだ帰って来てないよ」

「……そうか」



* *






――“本気でやってよ!!”


この言葉を言った後、私は一瞬にして目の前が真っ暗になった。
その後の事は、クロロから聞いた話でしか知らない。

あの瞬間、私の言葉は“言霊”となってフェイタンを襲った。
己の意思に反してフェイタンの体は勝手に動き、念を纏った手で私を攻撃したらしい。

私は数十メートル先まで吹っ飛び、シャルとマチは急いで私をクロロの元まで運んだそうだ。
その時のフェイタンの様子を知るものはいない。


――ただ、フェイタンは私が回復して迎えに行くまで、決して私の前に姿を現さなかった。










――“ルーエル、起きろ”

クロロの声に、私の意識は浮上した。
同時に身体中に走る激痛と息苦しさ、そして見えたのは私の体から勢い良く昇る白い湯気。


――“ゆっくりと息を吐いて、この湯気が体中を巡る感覚をイメージするんだ。
そう、それを自分の体内に留めるよう意識しろ”


意識が朦朧とする中、クロロの声だけは鮮明に響いた。

ゆっくりと息を吐き、クロロの言葉に従う。
やがて勢い良く体から出ていた湯気はピタリと収まった。
それと同時に感じた体を包む暖かさ。心なしか、体の痛みがマシになった気がする。

しかし次に訪れたのは急激な眠気だった。
瞼を閉じる瞬間見えたクロロのどこか安心した顔。





私は、深い眠りに落ちた。






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