突然の出来事



「アレンくんが動かない」

余程テンパっていたらしい。
学校で友人達にそう言うとラビ好きの友人から「そらそうだ」と突っ込まれ
神田好きの友人から「アニメなら動くからDVD貸したげる!」と嬉しそうに言われ
ティキ好きの友人から「教科書忘れたから一緒に見せて」と話題を変えられた。

事の始まりは今日の朝。
いつも通り開いている本に向かって挨拶をしようと目を向けたら、中の絵が止まっていることに気付いた。
アレンくんが一枚の絵に手をついて誓いを立てているシーンで一巻が終わっている。
どんなに声をかけても彼が動くことはなかった。
頭の中が真っ白になりつつもとりあえず大学には行き、友人達に口を滑らせ突っ込まれ、そして今はつまらないアルバイトの最中だ。
ちなみにアルバイトは駅にあるネカフェの定員。
本棚の整理とかこつけてDグレが置いてある棚に行き、二巻を捲ったが動かなかった。
……本来はそれが当然なのだが。
今はドリンクバーの清掃を済ませレジに立っている。
レジだけだし楽だろうと思って入ったネカフェのアルバイトだが意外にも仕事があるもんだから驚いた。

「(帰る頃はあそこの古本屋…いや、書店どころか殆どの店閉まってるや。
明日買いに行くしか…)」

客が入店してきたベルの音に慌てて顔を上げ

「いらっしゃいま……あれ」

「やっほー透ー」

手をひらつかせながら入ってきたのは神田好きの友人だった。

「どうしたの。珍しい」

「調べ物ー」

「自分のノーパソは」

「壊れちゃったみたいでさー
明日見てくれない?パソコン詳しい人透しかいないもん」

「どう壊れたの?」

「マウスが動かないの」

「一回再起したら直る時あるけど…」

「それがダメみたいー」

「んー…なら接続不良かなぁ
分かった。明日見るよ」

「やったぁ。じゃあこれ、前払いのお礼ね」

ずいっと差し出してきたのは紙袋に包まれた何か。
形や大きさから見て本のようだ。

「ふらっとそこの古本屋寄ったの。
安かったし透にあげるよー」

ガサガサと開けて中を見ると、やはり本だった。…しかも

「あ…二巻」

「それに私の嫁(神田)の勇姿も早く見て欲しいしね!」

「神田はいつ君の嫁になったんですか」

「初めて見た時から!!」

「婿じゃないんですか」

「嫁なの!」

「そうですか」

パラパラと二巻を捲る。
やはり動かない。
とりあえず店長や他の定員に怒られる前に本を紙袋に戻し

「ん、まあいいや。ありがとう」

「DVD明日持ってくるね」

「うん、分かった」

「やっぱりアレンが好き?」

「どうかな。まだアレンくんと神田しか出てないし」

「意外とコムイさんとか?
あ、リーバー班長とか!
リナリーも可愛いしっ」

「あはは、まあ追々ね」

「もー、アレンが好きなくせに素直じゃないなー」

「ほらほら、席と時間早く決める」

そんなこんなですんなりゲット出来た二巻。
帰りのバスの中でも捲ってみたが動かず、もしかすると私が買わないと動かないのかと道中不安だったが、家に帰り着いて本を開くと当たり前のように動きだした。

「あ…アレン、くん!!」

『うわっ!?』

椅子を何とも不安定な形で傾けさせ、その上で腕立てという驚異の筋トレをしていた彼がバランスを崩す。
しかしストンと軽やかに床に着地し此方を見ると、驚いたのか目を丸くしながら

『びっ…くりしたー…透さん?』

「アレンくん…」

『おはようございます?』

「こっち今、夜だし」

『じゃあ、お帰りなさい』

「ただいま…」

『どうしたんですか?
なんだか元気ないみたいですけど』

「元気あるよ」

『声の調子、いつもと違います』

「なんで分かるの」

『四六時中透さんの声聞いてるんです。分かります』

アレンくんは自分で用意してしたのか近くにあったタオルで汗を拭き、上半身裸のまま此方に体ごと向けてくる。

『何かあったんですか?
話したくないなら無理に聞きませんが…』

「……ううん」

『…透さん?』

「大丈夫、ちょっと…安心しただけ」

『安心、ですか?』

「うん…今日1日、ずっとアレンくんに会いたかった」



会えて良かった
『え…あの、ほ、本当に、どうしたんですか?
いきなりそんな…』
「アレンくん…良かった…良かった…」
『透さん…』

 

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