アレンの苦痛



「ただいま…」

『………お帰りなさい』

「?…なに。何かあった?」

本の中のアレンくんはどこかの薄暗い部屋におり、その部屋のベッドに座っている。
しかし当の本人は拗ねた様子だ。

大人びた人だな、と思っていたがこういう顔をしていると割と年相応じゃないだろうか。

子どもっぽい顔を見て
こちらが見えないのを良い事にニヤニヤ笑う。

「もしかして教団の試験に落ちた?」

『教団には入れましたし試験もありませんでしたけど…
いや、あれが試験というべきか…
とにかくアクマと勘違いされて攻撃されたんですよ』

「あらら。なんでまた」

『左目のペンタクルが引っかかったんです。
一応呪われてますしね。
そのおかげでえらい目に遭いましたよ。
同じエクソシストから攻撃されるし、差別されるし、腕壊れるし修理痛いししシカトされるしムカつくしイラつくし』

「後半大分私情が入ってるね」

『神田っていう名前の人です。
あんなパッツンなんで東洋人に見えますけど
実際はどうなんだか』

「(…なるほど、あの人が好きそうなキャラだ)」

『その神田って人と明日任務なんですよ。
上手くやっていける気がしない』

ハァ〜…と心底気だるそうに重い重いため息をつくアレン。

「頑張れ。
それがプロというものだ。
というかさっそく任務なのね。大変だ」

『ええ。今日の内に教団内を案内してもらって
団服の採寸を終わらせて
明日にはもう仕上がるそうです』

「はや」

『任務は良いんです。任務は。
ただ一緒になる神田が…』

深い深いため息をつくアレンくん。

うなだれる彼の白い頭にティムが面白そうにちょこんと乗った。

「ふうん。意外。
アレンくんって苦手な人でもあまりあからさまな態度とらないっていうイメージだったから…」

『…そうでもないですよ』

「みたいだね。
意外だけどちょっと安心した」

『安心?』

「いや…たまーにいるからさ…
自分の感情押し殺して、結局最後は自爆して
目も当てられないことになる人って」

『……僕は大丈夫ですよ。
透さんは優しいんですね』

「別にそう言うつもりはないけど…」

『優しいですよ』

「わ、分かったからそれ以上言わないで」

なんか恥ずかしい。

『あれ?照れてま』

「そんなことより。
ケーキ買ってきたの」

何かぬかそうとする前に遮って話題を変える。

テーブルの上に置いていたケーキが入った箱を開け、食器棚からケーキ皿を取り出してくる。

『へ?ケーキ?』

顔を上げてキョトンとするアレンくん。

「うん。アレンくんが正式エクソシストになったお祝いのケーキ。
今日から期間限定の新作ものだよ」

箱からケーキ皿に移したケーキは
色んな種類のフルーツをふんだんに盛り付け、ふんわりとした生クリームを贅沢にも大量に使ったもの。

「うちの学校の生徒達ほとんどが絶賛するケーキ屋さんだから、味は折り紙つき」

『…………あの、透さん』

「なに?」

『気持ちはすっっっごく嬉しいんですけど…
僕、食べれませんよね…?』

「うん。だから私が変わりに食べてあげるね」

『ちょっそれ全然意味ないですよね?』

「おーありだよ。
ケーキなんておまけおまけ。
言わば場を盛り上げる為のパーティーグッズみたいなものだよ。
要は気持ちの問題。
お祝いと聞いて美味しい料理とケーキがメインって考えてる時点で
アレンくんはお祝いの真の意味を理解してないって証拠」

『くっ…なんだろう…
言ってることは間違ってないのに
どうしてこんなに納得できないんだろう。
祝われてる僕がどうしてこんなに惨めな気持ちなるんだろう…』

「というわけで、いただきます」

『あああ…無慈悲にも僕の為に買われたはずのケーキが食べられていく…』

本の中で何かに耐えるように食いしばっている彼に構わず
私はフォークを柔らかいケーキに差し込んで一口食べる。

「うん。美味しい」

『それは良かったです…』


二人きりでお祝い
『もしかして1人で二個食べるんですか?』
「一個しか買ってないよ。
美味しい分高いんだし」
『最初から1人で食べる気満々じゃないですか』

 


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