変哲のない日常



突然背後から聞こえた声。

同じ歳ぐらいの男性だと思ってたし、もちろん最初は気味が悪かった。

呪われただけでなく遂に幽霊にまで憑かれるようになったのかと
若干だが落胆した。

怖かったけど聞こえた声に振り返って向き合い、話してみれば
色々驚愕する内容はあったが…なんてことはない。
姿は見えないけれど、声の主は叶えたい夢を持ったしっかり者の女性。

ちょっと意地悪な所があるがそこはおそらくご愛嬌なのだろう。

腹も立たないし憎らしくもならない意地悪だからだ。

最近夢に自信がないのだろうか?
夢について話す時の声はどこか落ち込んでいる。

夢を持てるって時点で胸を張って良いのに。
と、僕は苦笑する。

夢は簡単そうで意外と持つのが難しい。
僕も特に思いつかないから
ハッキリとした夢を持っている透さんが少し羨ましかった。

「応援してあげたいよな。
ティムキャンピー」

ティムをぷにぷにつついて遊ぶ。

姿が見えない夢追い人。
一体どんな姿をした人なんだろうか…?

そう思いながら
僕も教団に行く為の準備を始めた…

















「ねぇーもおー!
神田格好良くない!?
神田がやっぱり一番だよー!
蕎麦好きのくせにっ結婚してほしいっ」

「うちはティキかなー?」

「ラビもいいじゃん!
惚れっぽい所も含めて好きだよ私ー」

授業が始まるまで後10分。
丁度一限が終わり、休憩時間になった頃に私は教室に入った。

既に来ていた友達に「おはよー」と挨拶して授業の準備に取りかかると
友人の一人がさっそく暴走した。

「透も読みなってDグレ!
今休載してるけど単行本は結構出てるからさっ
透はアレン好きそうっ」

「あー…うん、昨日古本屋で買った本が偶然それだったよ。
まだ一巻しか買ってないけど」

「どうだった!?」

「ん、面白いよ。
まだ神田とかいうキャラは出てないけど」

「うそー?
神田なら一巻から出てるって」

「まだ途中なんだ。
途中まで読んで課題始めたからさ」

「あー、課題出来た?
私一応書いてきたけど最後のほうグダグダでさぁ」

「うちもー
書いてて途中で意味分かんなくなってきちゃった」

「あるある。
大正時代とかわかんないしさー
私の家ネット繋がってないでしょう?
調べられないから図書室に缶詰めだったよ」

「うちはお母さんに聞いた。
ほら、お母さん介護士だからさ
大正生まれのおばあちゃんとかいるみたいで聞いてもらったんだ」

「へー、いいなぁ」

「明治生まれもいるって」

「マジ?すごーっ
ちょっと会ってみたいかも」

「こういう時って取材に行けたら良いんだけどねー
タイムマシンとかないしさぁ」

「タイムスリップよりDグレの世界にトリップしたい」

「どんだけ神田に会いたいのさ」

ケラケラ笑いながらマシンガントークを繰り広げる友人達を
私は頬杖をついて微笑しながら聞く。

大体いつもこんな感じだ。
三人のマシンガントークに私は聞き役に徹し
問われたら返す、もしくは気になった話題にちょっと乗っかってくる。

こうして4人の談笑は成り立っている。

口数は少ないが決して楽しくない事はない。
むしろ楽しんでいる方だ。

「あ、チャイム鳴った」

「やば。うちパソコンの電源入れ忘れた」

ガタガタと自分の席に戻り始める友人達。

と言っても、この授業の先生は優しい方だから
座る席は基本的に自由なので友人達は周りにいる。

うち一人が私の前の席に座って振り返ると

「透、今日みんなで彼処のケーキ屋寄って帰ろうよ。
新作出たっぽいよ?」

「へぇ、そうなんだ?
彼処のケーキ美味しいから悩むなぁ」

「なんか用あんの?バイト?」

「ん、ちょっとね。
バイトは明日なんだけど
人が来るんだ」

正確には『いる』だが。

「そっかぁ
じゃあ丁度良いじゃん。
持ち帰り出来るし、買って帰ったら?」

「だね」

「始めるぞー」と、緊張感のない呑気な声を上げながら先生が教室に入ってきた。
それと同時に前を向く友人。

そして退屈な60分が始まった。


それぞれの暮らし
パソコンの画面を見つめながら考える。
「(アレンくん、今頃教団かな?)」

 


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