二次元からの助言



「うーん…」

筆が進まない。

筆と言っても今向かい合っているのは真っ白な画面のノートパソコンだが。

目の前のノートパソコンは数行だけ文字を並べて
それ以降はまったく進もうとせず
ただチカチカと、まるで次の文字を急かすようにキャレットが点滅する。

「困ったな…明日までの課題なのに」

『どうひたんでふか?』

宿屋らしき場所に泊まっているアレンくんが
これでもかと大きなサンドイッチを幸せそうに頬張りながら聞いてくる。

まだ食べるのかこの大食漢は。
というかそのサンドイッチ、日本じゃ標準的なバゲット通り越してパリジャン丸々一本じゃない?

「ん、課題が終わらなくてね」

ちなみに今本は適当に開いたページをクリップ等で固定し
安物の写真立てに立てかけて更に固定している。

ページ数はあるのにどのページを開いても絵は変わることはなかった。

『課題…提出物ですか?』

「うん」

『どんな課題です?』

「多分アレンくんには分からないと思う」

『え?』

「これ文学部の課題だから。
私、一応作家目指してるんだ」

『作家!?へぇ…!』

意外そうに目を丸くする。

「文学部行ったからって作家になれる人は稀なんだけどね。
まあ…行って損はないかなって。
私の大学他の文学部と違って創作活動が多いし」

『どんな物語書いてるんですか?』

「ん?ああ、今書いてるの?
これは先生が出してきたテーマに沿って短編一話を書くものだから
正確には私の作品じゃないよ。
文章考えたのは私だけど。
ちなみにテーマは『大正時代の書生の葛藤』」

『書生…?』

「昔の人はね、様々な理由で他人の家にお世話になり
その家の手伝いをしながら勉強してる人がいたんだよ。
そういう人達のことを書生って呼んでたの」

『へえ…そうなんですか。
流石作家の卵。色々知ってますね。
僕、文字の読み書きや計算は一通り出来ますが学は基本的になくて…
少し羨ましいです』

「その代わりアレンくんは普通の人では不可能なことが出来るんだもの。
それはそれで凄いよ」

『そうですか?ありがとうございます』

そう微笑んで食べてる途中だったサンドイッチを再び頬張りだす。

そんな彼の様子を横目に
私は一体文章を保存してソフトを最小化させるとネットを立ち上げた。

物語を書く上で必要なのは知識だ。
大正時代のことをとことん調べるしかない。

ひたすらネットサーフィンをして情報をかき集める。

しばらく部屋の中はマウスのクリック音しかしなかったが
やがてアレンくんがそんな静けさに石を投げて、波紋を作るような質問をしてきた。

『ところで、透さんオリジナルの物語はないんですか?』

動揺してブラウザを閉じてしまった。

「あっ!ちょっブラウザ閉じちゃったじゃん!」

『え?ブラウザ?
えと、あれ?…なんかすみませ、ん?』

何故怒られたのか理解出来てないようだ。

ブラウザの説明をするとなるとまずPCの存在からになりそうなので
彼には悪いがブラウザは一生の疑問にしてもらうことにする。

「…私が物語書いてるとは限らないでしょう」

『でも作家を目指してるなら書いてるはずですよ。
物語を書いたこと無い方が作家を目指すとは考えにくいですし』

確かにその通りだ。

私はしばらく無言で再びネットを立ち上げてネットサーフィンをし

「……あるよ」

『やっぱり!
どんな内容なんですか?』

「………お姫様と王子様の話」

『…へ?』

「お互い別の世界で生きているお姫様と王子様が
ある日夢の中で出会い、恋をする話」

『………』

「…笑って良いよ。
こんな歳になってお姫様と王子様なんてさ。
ベタ過ぎるし、もうすぐ20歳を迎えようかっていう人が今更夢物語もないでしょう。
だから誰にも見せないで自己満足で書いてるの」

『そうですか?
素敵な話だと思いますよ?』

「お世辞なんて…」

画面から紙面に顔を向けると彼の表情はとても穏やかだった。

『作家ならそういうこと気にせずに書いてみるべきですよ。
あらすじや設定はベタかもしれませんが
物語の文章でその印象はいくらでも変わります。
僕、読んでみたいな』


世界を広げるのは貴女だから
「…変わってるね。
私の物語読みたいなんて」
『そうですか?
普通に面白そうですけどねぇ』

 


- 4 -


[*前] | [次#]
ページ:


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -