垣間見た世界



大学の帰り道になんとなく寄った古本屋。

何かを探すわけでもなく、ただ沢山の本が密集してある本棚を
ぶらぶら歩いて背表紙を見てるだけ。

そして気になった本を手に取り
何気なく適当にパラパラと流し読み。
その行動は小説であれ漫画であれ同じだ。

他から見ると、やる気もなく興味無さそうに見える行動だが
実は私はこういう時間が一番好きだ。

本に囲まれ、自分の知らない新たな物語を探す。

巡り合えた一冊の本は
まるで運命により引き合わされたとさえ思う程。

それが小説でも、漫画でも良い。

とにかく私は本が好き。

家の本棚はもう入らなくて悲鳴が聞こえそうな程詰まっているが
なかなか大好きな物語達を売る気になれない。

売ったとしてもしばらくしてまた買い戻してしまう。
なら、いっそ持っていた方が良い。
という考え方が本棚をギチギチにさせている原因のひとつだ。

古びた本の埃臭さ。
紙に染み込んだ印刷のインクの匂い。

それら全てが私の探求心を擽らせる。

「(ん…?)」

そんな中、気になった一冊の本。

一巻を手に取りパラパラと捲る。

白髪の少年が不気味な機械的な敵と戦っている漫画。
曖昧にだがそれだけは分かった。

「…100円か」

だいぶ痛んでいるせいでかなり安い。

一巻が出た日付も相当古そうだ。

「やば。バスの時間」

ハッと思い出し、ひとまずその本を持って会計に走る。

そして袋に包まれたその本をカバンに放り入れてバスに飛び乗り、私は家へと帰る。

バス内で読む気にはなれない。
時間潰しに本は最適なんだろうが
私は自分の家に引きこもり、じっくりとその本の世界に浸りたいからだ。

その代わり帰りつくと行動は早い。

一人暮らしの家に着くや否や、ドアに鍵をかけ着替えもせず袋から本を取り出し
ボフッとベッドに沈む。

「ディー…グレイ、マン…?」

へぇ…どういう意味だろ。

というか、いま本のタイトル知った。

タイトル読まずに買っちゃうのは最早癖だな。
もう治しようがない。

表紙のこの銀髪…やっぱ白髪かな?
の、男の子が主役かな?
後ろの変な生き物なんだろ。

なんとなく、白と黒のモノクロな世界観が気になって買ってみた。

さあ、この世界に入ろう。

綺麗なイラストで彩られた表紙はいわば扉のようなもの。

この瞬間が一番ドキドキする。

表紙を開き

私は驚愕した。

「え…なにこれ」

絵が動いてる…?

中世時代の建物が居並ぶ外国で主人公であろう少年が、此方を背にして歩いている。

そういうシーンの描写ではない。

本当に動いているのだ。

「え、え?ちょっ…
なにこれ。…なにこれ?」

混乱する私。

最近流行りの電子書籍でさえこんな細かく動かないぞ。

これじゃまるで本当にこの世界そのものを見ている気分だ。

色は残念ながらトーンが使われた白黒だけど。

『…ティム?
今声が聞こえなかったかい?』

「っ!?!?」

喋った!?

いや、正確には吹き出しが勝手に出て文字が書かれたのだ。

喋ったのは主人公の少年。
連れであるのか隣にいる小さな羽の生えた球体に話しかけている。

ティムと呼ばれた球体はプルプルと体を揺らす。

『…気のせいかな』

「また喋った。
うわー…よく出来てるなぁ…」

『っ!やっぱり聞こえた!
僕の後ろから!』

バッ!と振り返った少年。

バチッと目が合う。

が…

『……誰も、いない…?
おかしいな…
今誰かと目が合った気がするのに』

「っ…!」

え?

えっと…

まさか、ねぇ…?

「どうしよ…私、疲れてるのかな…」

いくら来年は就活だからってこんな…

『やっぱり声はする…
あの、誰かいるんですか?
いたら出てきて下さい』

「……………」

『……………』

「…………あの」

『……はい?』

少年は不思議そうにこっち見た。

うそ。有り得ない。


平面世界と
立体世界

一旦本を閉じて数秒待った。
それから開いてみたら
少年は変わらずこっちを見ていた。

 


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