5.味方だよ。いつまでも



ドクターと婦長をファインダーが横たわる部屋に呼んだ途端
ルシファーから僕達も追い出された。

2人で食堂で
空いた小腹を埋めながらリナリーが話し出す。

「あの人は自分が助けたって知られたくないみたいなの」

「…どうしてですか?」

「恥ずかしいんだって。
照れ屋でシャイなのよルシファーって」

おかしそうに笑ってリナリーはコーヒーを飲む。

「だから、先日のアレンくんの怪我を治した後
ルシファーにお礼を言いに来たこととても驚いてたわ。
ほら…ルシファーが出る時の患者の怪我って
大概が意識が朦朧としてぼんやりしてるような状態でしょう?」

「そう言えばそうですね」

「だからほとんどの患者さんはルシファーに救われたって知らないし
あの人も助けたのは自分だと言わないし
更に助けたのはドクターと婦長だって言って否定するの」

「とんだ照れ屋ですね。
…じゃあ僕がルシファーが歌って治してくれたと覚えてたのは
よっぽど衝撃だったでしょうね」

苦笑して目の前に山盛りになっているみたらし団子にかじりつく。

「僕もたまたま覚えてただけなんですよ。
出血が多く血が抜けすぎて呆然と意識が霞む中
誰かの声が聞こえるんです。
声掛けの内容は覚えてませんが…
このまま眠ってしまおうと目を閉じた瞬間
徐々に全身の痛みが和らいでいって
体が温まっていく感じがしたんです。
不思議に思って目を開けたら霞がかってたさっきの視界とは違ってとてもクリアで
そこでルシファーの顔をハッキリ見たんです」

顔の表情は今でも覚えている。

眉をひそませた厳しい顔で。
必死に助けようとしている表情。

それほど僕の怪我が酷かったに違いない。

「そこで力尽きて寝ちゃって…
後日コムイさんから彼女のイノセンスの内容を詳しく聞いて確信したんです。
僕を助けてくれたのは彼女で間違いない、と。
お礼を言った途端ひどく驚かれたのはそういうことだったんですね」

みたらし団子を3、4本手に取り
それを一気に口に含む。

「私達エクソシストや科学班、医療班はルシファーをよく理解してる。
けれど…ああやって真実を隠しちゃう上に鋭すぎるほどストレートな物言いでしょう?
イノセンスの反動で睡魔が酷いと知らない
そして関わりがあまりない人には
あまり良く思われてないみたいなの。
あの人も「信じてくれないから意味ない」って挽回する気ないし…
困ったものね」

本気で困ったように深いため息をつくリナリー。

「めったに感情を激しく出さないクールな人だけど
彼女だって人間よ。
人並みに傷付くことだってあるわ」

周りのルシファーに対する陰口が絶えないことをリナリーも気にしてるようだ。

かと言って解決策も浮かばず
僕は言葉を呑み込むように数本分のみたらし団子を飲み込んだ。

「あれから結構経つけど…
まだルシファーの治療があってるのかしら」

リナリーに吊られて時計を見ると、もう随時な時間が経っている。

正直こんなに経っても彼女が起きているなんて信じられないほどだ。

「そろそろ様子を見に行きましょうか。
ファインダーの方も心配ですが、ルシファーの方も心配です」

まだ大量に残っているみたらし団子を袋いっぱいに詰めてもらい
それを抱えてリナリーと食堂を出て医務室へ向かう。

後少しで病室という所で
「キャア!」というナースの悲鳴と共に何かが倒れる音が聞こえた。

「どうしました!?」

ノックも無く部屋に飛び込み、そこで目にしたものは
驚いている様子のナースと
床に倒れて眠り込んでいるルシファーの姿。

ドクターが穏やかに言う。

「患者が眠ってしまったので治療はひとまず中止です。
ですが、この程度ならもう大丈夫ですよ」

患者を見ると
血のついた包帯にまみれ目も当てられないような
あの痛々しい姿から
まだ所々絆創膏は貼られているが、穏やかに眠っている寝顔を見れるくらい
奇跡のように回復していた。

 


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