4.緊急の患者



「コムイさんからお願いされた以上面倒見ますけどね
君も道端で眠ったりしないよう気をつけてくれます?」

部屋まで運んでいる途中ルシファーの目が覚めたようだ。

僕の背で寝ぼけてぼんやりしてる彼女にそう言った。

「…………もやし」

「うるさいですよ男女」

ルシファーは女性ではあるがその顔は中性的。

おまけに団服は可愛らしい感じのリナリーとは違い
ズボンでやけにシンプルなデザインだ。

僕は一目で女性だと分かったが
教団の中には彼女を男性だと思っている人も多い。

初対面の時見せてくれた
あの聖母のような笑みは僕の目の錯覚だったのだろうか?

「アレン・ウォーカー…」

「なんですか」

「怪我はもういいの?」

「ええ。もうすっかり回復してます」

「そっか…」

声に安堵が混じっていた。

そんな声が耳の近くで響いて少しくすぐったい。

「戦闘続きで医療班も手が回らなくなったから私が呼び戻されたんです。
仕事はきちっとしないと」

それぐらいしか出来ないから。

呟いた声はどこか悲しげだった。

その声にツキリと僕の胸が痛む。

「アレン・ウォーカー」

「いい加減アレンって呼んでくれませんかね」

「似非紳士」

「どうしてそうなったんですか」

「どっか行きたいから下ろして下さい」

「どっかって…眠気は?」

「なくなった」

「ちなみに何処へ?」

「リナリーに会いたいな」

「はいはい」

言われた通りルシファーを下ろす。

眠気がなくなったとは嘘ではないようだ。
さっきとは違い足取りはしっかりしている。

「リナリーはどこでしょう…
コムイさんの所かな?」

「また科学班の皆さんにコーヒーを淹れてるかもしれませんね。
途中で君が寝てしまわないよう僕も行きます」

「なんかアレン・ウォーカーがハワード・リンクみたいです」

「コムイさんからお守りを頼まれただけです」

「そうですか。どうも」

安い挑発に乗らない辺りやはり彼女は大人だ。
ちょっと悔しいけど。

いざ探索を始めようと歩き出した時、後ろからパタパタと走る足音が近付いてきた。

振り返ると切羽詰まった表情のリナリーがいた。

「ルシファー!やっと見つけたわっ」

「やあ、リナリー。
今丁度私も探してた所なんですよ。
久しぶりにケーキでもつつきながらお茶を…」

「それ所じゃないの!
一緒に来てルシファーっ
ファインダーの人で重症者が…!」

リナリーから手を握られるルシファー。

『重症者』

その言葉を聞いてルシファーを普段から取り巻いているのんびりとした雰囲気が消えた。

「意識は?」

「え?」

「意識がないと私が歌っても馬の耳に念仏状態ですよ。
患者の聴覚がしっかり機能して私の声が届かないと意味がないんですから」

「意識ははっきりしてるとは言い難いけど…
声掛けに僅かに反応してるから聴覚は機能してるんじゃないかしら…」

「行きましょう。
患者はどこです?」

「こっち」

リナリーに引っ張られるまま
足早に患者がいる部屋に向かう。

やがて着いた場所は集中治療室だ。

部屋の外では一人のファインダーが頭を抱えてうなだれている。

僕はすぐさまそのファインダーに近付き

「どうしたんですか!?」

「エクソシスト様…っ
今この部屋で治療を受けてる人は同じ時期に入団した同僚なんです…
アクマからの攻撃の際に出来た巨大な瓦礫から俺…いえ、私を助ける為に…!」

「瓦礫に潰されたって事ですか。
内臓破裂の可能性がありそうですね。
なかなか長丁場になりそうです」

表情も変えず淡々と話すルシファーにファインダーの人はイラッときたのだろう。

彼女に憎悪の視線を向け

「イノセンス適合者のエクソシストのくせに
ホームでダラダラ寝てるだけのお前に何が分かる!
戦場で戦ったこともないくせに!」

「喚くなら即刻この部屋から離れて下さい。
私の声が掻き消されちゃたまりません」

「なんだと…!?」

怒りを露わにするファインダーの人に目もくれず、ルシファーは部屋の中にさっさと入っていく。

僕とリナリーは慌てて追いドアを閉め

「ルシファーっ彼に君のイノセンスを見せたらいいじゃないですか。
完全に誤解してます」

「貴女は昔から言葉がストレートすぎるのよ」

「健康な人に治療を施してどうするんですか。
見せる必要はありません」

「誤解されたままでいいんですか?」

問う僕にルシファーはまっすぐ見つめてきた。

「…アレン・ウォーカー。
貴方は見栄の為にイノセンスを使ってるんですか?」

「え…」

「人やアクマを救済したいからイノセンスを使うのでしょう?
私も、人の命を救いたいからイノセンスを使うのです」

「…………」

「そこに見栄とか立場とか
関係ありませんよ」

彼女はそう言って、ベッドの上に横たわる血だけの包帯にまみれたファインダーの人を見る。

そして耳元付近で手を叩いて音を立てると
ファインダーの体がビクッと震えた。

「聴覚は生きてますね。
これならいけるでしょう」

微笑み

そして

「イノセンス発動」

彼女のイノセンスが動き始めた。

 


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